もっとスムーズに 第4章
第3章では、「完読」される文章目指した、具体的な改善ポイントを示しました。
文章には品の良さや丁寧さというものが求められると私は思っています。ここでは、「適切なスピード感のある文章」について詳しく解説していきます。
- 1. スピード感をコントロールする
- 2. 体言止めは読者に負担を与える
- 3. 行きすぎた名詞化はぶっきらぼうさを生む
- 4. 指示語は最小限に
- 5. 「今作」「当サイト」…指示語もどきに注意
- 6. 一般性のない言葉を説明抜きに使わない
- 7. わからないことはひと言でも書いてはいけない
- 8. 「企画」「作品」…ボンヤリワードに注意
- 9. 「らしさ」「ならでは」には客観的根拠を添える
- 10.トートロジーは子供っぽさを呼び込む
- 11.文頭一語目に続く読点は頭の悪そうな印象を与える
- 12.約物の使いすぎは下品さのもと
- 13.丸かっこの補足は慎み深さとともに
- 14.可能表現に頼らない
- 15.便利な「こと」「もの」は減らす努力を
- 16.なんとなくつなぎ言葉を使わない
1. スピード感をコントロールする
多くの文章教室では「文章で大事なのはスピード感」「一文は短く」「冗長な表現はNG」といった指示がなされています。しかしその先にある真髄は、「適切なスピード感にコントロールしよう」というメッセージなのです。
文字におけるスピード感は、情報量÷文字数で割り出すことができます。
文章ああまりにも冗長なら読み手は離脱しますし、ソリッドすぎてもぶっきらぼうで読む気が失せてしまいます。目指すべき「完読」のために、基本コンパクトにまとめつつ、無愛想にならないてい程度の丁寧さをもって読者をおしまいまで導かねばなりません。
まずはスピードが出せるようになって、その後適切にコントロールすることを覚えましょう。
2. 体言止めは読者に負担を与える
体言止めとは、文末を名詞や代名詞で終わらせるテクニックです。文字数が減ってタイトになる上、文末にバリエーションを与えてくれ、リズムを整える効能もあります。しかし、体言止めには読み味を落とす危険な側面があるのです。
省略された部分の言葉は何なのか、読者は瞬時に脳内で演算して埋めてくれているのです。この隠れたものを瑠偉測する脳の働きが読者を疲れさせ、ひいては文章から離脱していく原因となっていきます。
体言止めは、便利だけど読み味を落とす、諸刃の剣と覚えてください。
3. 行きすぎた名詞化はぶっきらぼうさを生む
文章をソリッドにする効果がありますが、省略によるぶっきらぼうさも生まれてしまいます。体言止めのメリット・デメリットにも似ています。
〈例〉
△ 赤塚不二夫生誕80周年記念長編劇場アニメ。
〇 赤塚不二夫の生誕80周年を記念した長編劇場アニメ。
原文には全く助詞などのつなぎがなく、長い名詞になっています。意味は通じますが、音読したときに息切れしてしまうのではないでしょうか?省かれた表現を補足すると、スムーズな文章になります。
〈例〉
✕ 初回生産限定スペシャル特典カード封入。
△ 初回の生産のみ限定で、スペシャルな特典のカードが封入されている。
〇 初回生産限定でスペシャル特典カードが封入されている。
原文は完全な名詞化。次の文は、省かれた表現を可能な限り補足したものです。最後の文は、「初回生産限定」と「スペシャル特典カード」を熟語として残し、「封入」の体言止めをやめました。
名詞化の親戚といえるのが、「~化」「~的」「~性」などの言葉を足して熟語化する表現です。「~ような」「~らしさ」を熟語的に表現する用法もこの仲間でしょう。すでに辞書に載っているオーセンティックな単語はまったく問題ないですが、オリジナリティのレベルが上がってくると、文面にあざとさが漂い始めます。
4. 指示語は最小限に
指示語とは、前の文脈で提示させた言葉を指し示して言い換える言葉です。指示語が続くと、読み手はいちいちそこに入る言葉を判断しながら読み進めなければいけないので疲れますし、続きを読む気も失せてしまいます。
「こそあど言葉」はなるべく使わず、具体的な言葉で文章を構成していく習慣を身につけましょう。
5. 「今作」「当サイト」…指示語もどきに注意
指示語と同じ意味で注意してほしいのが、指示語のように振る舞う言葉です。
◆指示語もどきの一例
今:今作/今回/今年度/…
前:前作/前回/前年度/…
本:本作/本年度/本シーズン/…
昨:昨年度/昨シーズン/…
当:当作/当劇場/当サイト/…
これらの指示語もどきも、多用すれば指示対象があいまいになり、読者の頭を混乱させる表現になります。一見すっきりとして見えますが、固有名詞を出したほうが格段とわかりやすくなります。
固有名詞は、くどくなるギリギリまで繰り返したほうがいいです。文章から具体性が失われず、読み手に固有名詞が浸透していきます。
6. 一般性のない言葉を説明抜きに使わない
専門用語や業界用語、ジャーゴン、符丁、俗語、隠語といった、一般性の低い、限られたコミュニティでしか通じない言葉を私は「閉じた言葉」と呼んでいます。こういった言葉はなるべくかみ砕いたり、説明を添えたりすることで広い理解を促すべきでしょう。
またクリエイティブ系の人々が使いがちな、「刺さる表現」「攻めた内容」といったクセのある形容詞、ビジネスマンが使いがちな「アグリーした」「ジャストアイデアだが」といったオトナ語も閉じた言葉といえます。
7. わからないことはひと言でも書いてはいけない
どんなジャンルの文章であれ、自分が理解していない言葉を一語たりとも書いてはいけません。文脈に大きく関係ないとき、話し相手が語った固有名詞、あるいは参考資料にある見慣れない言葉を左から右にそのまま書いてしまうこともあるかもしれません。
第一に読者に事実を伝えるサービス精神において、第二にリスクマネジメントの観点において、生返事や知ったかぶりは絶対にダメです。
「こういうことだろう」でなんとなく書かず、必ず検索して概要は理解しておきましょう。「これ何?」とツッコミ体質になることがライターの必須条件だと、私は常々考えています。
8. 「企画」「作品」…ボンヤリワードに注意
具体性に欠ける言葉を私は、「ボンヤリワード」と呼んで取り扱い要注意の単語に指定しています。抽象度が高い上に使い勝手がいいのですが、それゆえインフレを起こしがちですし、使うほど文章の輪郭が曖昧になっていきます。
◆よく使われるボンヤリワード
企画、作品、楽曲、番組、物語、コンテンツ、ストーリー、ステージ、プロジェクト、etc…
〈例〉
△ 貞本義行によるマンガ版「新世界エヴァンゲリオン」の完結を記念した企画が実施されている。
〇 貞本義行によるマンガ版「新世界エヴァンゲリオン」の完結を記念して、複製原画をプレゼントするキャンペーンが実施されている。
例文では、踏み込んだ補足説明を加えることで具体性を高めました。指示代名詞のように使っている場合は、具体的な言葉に置き換え、説明不足な場合は情報を足しましょう。
9. 「らしさ」「ならでは」には客観的根拠を添える
「~らしさ」「~ならでは」「~おなじみ」といったフレーズは、暗に読み手に認知を要求しているため、どうしても独善的なニュアンスが漂ってしまいます。
広く世間に情報を発信するなら、「知っていて当たり前」といった考えは傲慢です。もし既知を前提としたフレーズを使うとしたら、必ず客観的な根拠も添えることを心がけてください。
例えば「おいしい」は明確に主観的なので気付きやすいですが、「達者」「人気」「豪華」といった、主観的判断を伴う単語は要注意です。
〈例〉
✕ 人気コミック『新宿スワン』が豪華キャストにて実写映画化される。
〇 シリーズ累計800万部の人気コミック『新宿スワン』が、日本アカデミー賞受賞俳優・綾野剛主演で実写映画化される。
10.トートロジーは子供っぽさを呼び込む
主語と述語が同じところにある主述同一文を「トートロジー」と呼びます。基本的には回避すべき文型です。
〈例〉
✕ その花は、花です。
〇 その花は、南国に咲く花です。
原文は、違和感を感じる文章ですよね。改善文では、修飾語の「南国に咲く」を付け加えて、違和感を薄めました。
しかし構造に還元すれば主語と述語が同一であり、それゆえに、敏感な人なら一抹の間抜けさを感じ取ってしまいます。
〈例〉
✕ そのアーティストは現在もっとも影響力を持ち、2016年には大規模なワールドツアーを予定しているアーティストだ。
〇 そのアーティストは現在もっとも影響力を持つ10人に選ばれた。2016年には大規模なワールドツアーを予定している。
原文で修飾を外せば、「アーティストは、アーティストだ」である、スマート表現とはいえません。「お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだよ」といった具合に、特別なレトリックとしてトートロジーを使う場合もありますが、一般的な文章では、読み手に違和感を与えてしまいます。
11.文頭一語目に続く読点は頭の悪そうな印象を与える
文頭一語目の直後には読点を打たないほうが、多くの場合、スマートに感じます。
特に危険なのは、一語目が接続詞のとき、文頭で主語を形成しているとき、間の抜けた印象になります。いきなり読点を打つと、内容を考えながらしゃべっている人の口調に似てしまうからだと私は考えます。
〈例〉
△ 私は、その日大阪へ旅行に出ていました。
〇 私はその日、大阪へ旅行に出ていました。
12.約物の使いすぎは下品さのもと
約物とは、文字や数字以外の記号のことです。かっこ類いや、クエスチョンマーク、リーダ、ダーシ、中黒、忘れがちなところでスペースも約物です。
◆約物の例
! ? ~ - ・ ー ()「」【】『』[] ❝❞ 〈〉《》{} …
かぎかっこは会話文や固有名詞を明示するための約物ですが、キャッチコピーなどでしばしば、文字列を強調するために使用されているのを見かけます。ダブルコーテーション(❝❞)も、本来は「いわゆる」といった意味を表す記号であり、一般的ではない特殊表現に対して使うのがルールです。エクストラメーション(!)で強調するのも、安易な表現と言わざるを得ません。
約物に頼らずとも要素を整理し、協調したいことは協調して伝えられるようにしましょう。
13.丸かっこの補足は慎み深さとともに
〈例〉
✕ 主人公のタケシ(設定では未来からタイムスリップしてきた)は、予知能力者おして祭り上げられてしまう(未来人ゆえにこれから起きる出来事を知っているため)。
〇 未来からタイムスリップしてきた主人公のタケシは、これから起きる出来事を未来人ゆえに知っているため、予知能力者おして祭り上げられてしまう。
丸かっこを用いた補足的な説明は、最小限に抑えましょう。文章に組み込めなかった言葉を補足するのに便利ですが、多用するのは自らの文章構成力が低いと宣言しているようなものです。本来は、注記や読みを示す機能が与えられていますが、それもあまり連続するのは考えものです。
できるだけシンプルな構造と文で書くように意識して、約物に頼らず協調や整理ができる筆力を養いましょう。
14.可能表現に頼らない
「~できる」「~可能だ」「~れる」といった可能表現は、なるべく減らすべきフレーズのひとつです。モノの説明をすることき、可能表現は大変使いやすく、なんならすべての文末に見かけるくらい頻出してしまうからです。
なにしろモノの特性に「できる」「可能だ」と付けるだけで文が成り立つので、一切の工夫もなしに書き進められます。
言い換えのひと手間が、文章に丁寧な印象を与えてくれます。
〈例〉
✕ このボールペンは滑らかに書くことができる。ノックをしてペン先を押し出すことができる。クリップで手帳に挟むこともできる。胸ポケットに収納することも可能だ。
〇 このボールペンいちばんの魅力は滑らかな書き味にある。ペン先はノックをすると押し出される仕組みだ。クリップは手帳に挟んでもいいし、胸ポケットに収納するときにも役に立つ。
15.便利な「こと」「もの」は減らす努力を
〈例〉
✕ 自分のことを理解することで、成長することができるようになる。
〇 自分を理解すれば、成長できるようになる。
語句に「こと」を付けて名詞化する用法はとても便利ですが、どんな事柄にも適用できるため、重複しやすく、表現もくどくなりがちです。
〈例〉
✕ 運動をすることで、健康になる。
〇 運動をすると、健康になる。
「ことで」を使わずに、別の表現を探したほうがすっきりした印象になります。
〈例〉
△ よく眠ることが必要だ。
〇 よく眠る必要がある。
「こと」を取るだけでなく、続く述語にも手を加えました。ときにはこのように分解して、重複を避けるといいでしょう。
〈例〉
△ 卓上電気ポットは手軽にお湯を沸かすために便利なものだ。
〇 卓上電気ポットは手軽にお湯を沸かすために便利な道具だ。
「もの」も注意が必要な言葉です。あらゆるモノを表せるため、頼りすぎると表現がボンヤリします。具体的な名詞に差し替えたほうが、読み手の理解が深まる文になります。
16.なんとなくつなぎ言葉を使わない
〈例〉
✕ 音楽をPCで聴く人あ増えてきた。そうした中、アナログレコードの再評価ブームが起きている。
〇 音楽をPCで聴く人あ増えてきた。そうした中、高音質データ配信サービスが人気を博している。
特に意味のないつなぎ言葉を、なんとなく使ってしまうことがあります。例文にある「そうした中」のもともとは、「そのような状況において」という意味で、前の文で提示された内容を受けるつなぎ言葉です。
〈例〉
△ お弁当のほうは温めますか。
〇 お弁当は温めますか。
「ほう」はなくても意味は通じます。口語的な表現ですし、丁寧にしているつもりで意味がないつなぎ言葉です。
〈例〉
✕ 私は基本的に大丈夫です。
〇 私は大丈夫です。
「的」を付けた言葉は、語句の印象をソフトにする効果があります。特に「基本的に」「一般的に」などは、例外はある、と含みを持たせるためについ雰囲気で使いがちな言葉です。
〈例〉
△ 今日は雨でした。逆に明日は晴れるそうです。
〇 今日は雨でした。明日は晴れるそうです。
口頭的表現で、逆説でない文章につなぎに「逆に」を使うケースもよくあります。
話し言葉に影響されたつなぎ言葉は、論理を混乱させ、文章をくだけた印象にしてしまいます。