もっと明快に 第3章

第2章では、「完読」を目指して文章を磨く方法をご紹介しました。

ここ第3章では、さらに具体的に、さらに細部まで文章を磨くポイントをご紹介します。

 

 

 

1.身も蓋もないくらいがちょうどいい

多くの文章読本やライター講座では、「文章はなるべく短く」「余計な言葉を削って」「タイトでソリッドな表現を心がける」と教えています。この教えはある意味正しく、ある意味間違っています。というのも、訓練を受けていない方が文章を書くとおおむね冗長に書きがちです。だから「身も蓋もないくらいがちょうどいい」。完読のためほんとうに目指すべきは、適切な長さの文章、適度に締められた文章なんです。

 

初心者が冗長な文章を書いてしまう原因は、主に不安にあると私は思います。自信のなさゆえに断定を避けて濁したり、言い回しを和らげようと余計な表現を足したりする。もしくは無内容なのにさも意味のあることを言っている気になる。まるで薄められたサイダーのような、あいまいな読み味だけが積み重なっていきます。当然、完読されない文章になってしまいます。

そこでタイトな文章を書くいちばんの秘訣は第1章で説明した、テーマと主内容の項に戻って、話題と諭旨をしっかり組み立てることです。文章をタイトに、ソリッドに締めていくテクニックを身に付けて、心地よい読み味を出せるようになってください。

 

 

2.余計な単語を削ってみる

① 接続詞を削る

接続詞を見かけたら、まず削れないかと疑ってみてください。削っても意味が通じるなら、迷わずカットしましょう。また意味が通じないようであれば、文章の流れが絞れていないまま、接続詞の力で強引につなげているかもしれません。

 

② 重複を削る

重複チェック第2章で解説した通りです。

 

③ 「という」を削る

内容説明の意味を持つ「という」は、文をソフトな印象にするせいか多用されがちですが、大半は削っても問題ありません。

 

④ 代名詞を削る

固有名詞で始まり、それを受けた代名詞が何度も繰り返されている文章をよく見かけます。2回目以降に登場する人称大栄氏や指示代名詞は、省いても意味の通じるものも少ないです。主語を明確にするために使われている代名詞など、伝達のために最低限必要な言葉は削らないでください。

 

⑤ 修飾語を削る

過剰な副詞や形容詞も積極的に削りましょう。修飾語は文章に彩りを与える半面、冗長さに直結します。伝えたい内容があいまいになるだけでなく、余計な部分が悪目立ちしてくどい印象になることも。強調の副詞や形容詞でインパクトを与える場は絞るべきです。

 

 

3.余計なことを言っていないか

① 逆説以外の「が、」

逆説ではない「が、」で終わる節は、丸ごと削っても意味が通じない場合があります。必要なければ削りましょう。クッション言葉などメールなどでは円滑にコミュニケーションを円滑にする言葉使いも、事実を正しく伝える文章においては邪魔になります。

 

② 脱線

いくら面白いエピソードでも、「ちなみに」「余談ですが」と前置きをして話を長く続けると、読者は読解に混乱をきたします。「話を戻すと」という強引に方向修正するマジックワードがありますが、いざというときだけに使いましょう。

 

③ エクスキューズ

目に触れる場所で断定したり意見を述べたりすることは、大変勇気がいることです。

「あくまで個人としての意見ということを強調しておきたいが」「ひょっとしたらお気に召されない方もいるかもしれないが」といった言い訳の言葉を書いて、予防線を張って逃げ道ばかり作っていると、文章はどんどん冗長になります。

言い訳(エクスキューズ)は勇気を持って削りましょう。断定できないあやふやなことは、書かないほうがいいでしょう。

 

④ メタ言及

「注目すべきは」「私の知る限りでは」「これから話すことは」「繰り返しになるが」など、文中で文の読み方について誘導したり補足説明したりする言葉がメタ言及です。時々使うぶんにはいいですが、多用すると書き手の視点を押し付ける印象が強くなり、イヤミな文章になります。

 

⑤ 定型文・慣用句

紋切り型とも呼ばれていますあ、もっともらしさだけが欲しくて書かせたような言葉は、余分なだけにとどまらず、読んでいる人を白けさせてしまいます。身も蓋もないくらいがちょうどいい、と思って削りましょう。

 

 

4. 「が」や「だ」で文章をだらだらとつなげない

〈例〉

△ 初の海外ライブとなった台湾公演だが、現地のファンが多数集まり、会場は開演前から異様な熱気包まれていた。

 

〇 初の海外ライブとなった台湾公演には、現地のファンが多数集まり、会場は開演前から異様な熱気包まれていた。

 

接続助動詞の「が」には、2つの文章をあいまいにつなぐとても便利な機能があります。一方で、逆説のイメージが強い接続助動詞でもあります。原文は間違いではありませんが、「だが」まで読むと何か悪いことが起きたようにも読めます。「には」と順接でつないだほうが、ストレートで伝わりやすい文章になります。

 

〈例〉

△ 暑いので、待っているもの辛かったので、いったん家に戻ったので、到着が遅くなってしまった。

〇 暑くて待っているもの辛かった。いったん家に戻ったら、到着が遅くなってしまった。

 

話し言葉のように「で」でだらだらと文章を続けると、冗長そのものになってしまいます。区切るところは区切って、意味の単位をはっきりさせましょう。

 

「が」や「で」で連結させながら、言い切らないまま延々と話し続けるような書き方を「謡うように書く」と私は呼んでいます。ガールズトークにも似ています。

 

 

5. 翻訳文体にご用心

〈例〉

△ 私は休みを取ることができるでしょう。

〇 私は休みを取れるでしょう。

 

冗長表現として、私が「翻訳文体」と呼んでいる言葉使いがあります。海外文学の翻訳ものでよく見かける、回りくどい言い方のことです。

 

◆「することができる」が誕生した事情

be(→が) able(→できる) to(→こと) do(→する)

 

こういった、単語ひとつひとつに対応した日本語を当てはめようとする訳し方を逐語訳と呼びます。翻訳家が原文のニュアンスを丁寧に訳出することを狙ったものですが、実用的な文章ではどうしても冗長してしまいます。

 

〈例〉

△ 彼女は努力しようとしてきたわけではなかった。

〇 彼女は努力してこなかった。

 

翻訳文体は文学的ではありますが、冗長さに直結しやすい表現でもあります。関連して、学術論文のようなお堅い言葉使いも同じです。

 

〈例〉

△ テーマを考える過程においては、その内容が価値を有する検証することから開始するべきです。

〇 テーマを考えるときは、その内容に価値があるか確かめることから始めるべきです。

 

 

6. 濁し言葉を取る勇気を

なんらかの存在があることを示す「など」「といった」「ほか」「ら」。これらの言葉を、「濁し言葉」と私は呼んでいます。例えば、並列の情報が全部で8つあるとき、「〇や△などが」と濁して記述すると、一定のスマートさを得ながらも全体を述べられた気がします。ほかの要素におわせることで、事実に対してある種の誠実さが保たれます。

しかし、読者にとっては、なんだか輪郭がモヤモヤしてきて、あいまいな印象を受けます。一方で「〇や△が」と誠実さを切り捨てたときに得られる強さ、キャッチーさがあります。これを私は、「誠実さとキャッチーさの相克」と呼んでいます。

 

〈例〉

△ 7月11日22時より日本テレビにて放送される「しゃべくり007」に、菅田将暉らが出演する。

〇 7月11日22時より日本テレビにて放送される「しゃべくり007」に、菅田将暉出演する。

 

例文では、実際に菅田将暉さんだけが出演しているわけではありません。もし誠実さを重視するのであれば、出演者全員の情報を入れるべきでしょう。しかし、とても読みにくい文章になりますし、情報が分散してアピール力も弱まります。あえてひとりの出演者に絞り込み、キャッチーな印象を強めました。

 

物事をほんとうに誠実かつ正確に伝えようとすると、必ず歯切れが悪い表現になります。事実に誠実になればなるほど、キャッチーな言い切りができなくなります。

全情報を羅列するか、濁し言葉でまとめるか、濁し言葉で削るか。それぞれにメリットとデメリットがあり、状況に応じて選びます。ただ伝える相手の興味がはっきりしている場合、濁し言葉を使わない方法がもっとも強い表現となります。

 

完読してもらう原稿にするためには、情報を適切に取捨選択する必要があります。さまざまなパターンを検討しながら、誠実さとキャッチーさの、ほど良いバランスを探ってください。

 

 

7. 伝聞表現は腰を弱くする

〈例〉

✕  9月12日に青森・夜越山スキー場で開催されるといわれている野外フェスティバル「AOMORI ROCK FESTIVAL ~夏の魔物~」の出演アーティスト第3弾が明らかになったとのこと

〇 9月12日に青森・夜越山スキー場で開催される野外フェスティバル「AOMORI ROCK FESTIVAL ~夏の魔物~」の出演アーティスト第3弾が明らかになった。

 

文章に書く内容は、事実として断定できることばかりではありません。

原文では、公表発表された情報を伝聞調で伝えているので、締まりのない文章になっています。誠実さとキャッチーさをてんびんにかけて、言い切る勇気を持ちましょう。

 

ニュースでも新聞でも、取材をもとに伝える内容は、厳密にはすべて伝達情報です。裏が取れた事実や取材に基づいた話題は、人づてであろうと断定的に語っていいのです。

 

◆断定

~だ/~である/動詞・形容詞の終止形

 

◆推量

~らしい/~のようだ/~だろう/~と思われている/~と考えられている

 

◆伝聞

~だそうだ/~とのこと/~と聞いた/~といわれている

 

 

8.複雑な係り受けは適度に分割する

〈例〉

✕  赤塚不二夫の代表作「天才バカボン」の初長編アニメ化となる今作の監督を務めるのは、鷹の爪団などの個性的でナンセンスなアニメ作品を制作してきた奇才FROGMAN

 

例文は4行にわたって句点がない一文です。係り受けが入り組んでいて意味が取りずらい、読んでいて息切れする感覚があります。幹となる述語は「FROGMANだ」、主語は「務めるのは」です。

 

〈例〉

〇 赤塚不二夫の代表作「天才バカボン」が長編アニメ化されるのは、これが初めて。監督を務めるのは、ナンセンスなアニメ作品を制作してきたFROGMANだ。

 

「初」と「長編アニメ化」に分けて、「長編アニメ化されるのは、これが初めて」とし係り受けをほどきました。文を読み返して分かりにくいと感じたら、係り受けをバラしてみましょう。

 

 

9.係り受けの距離を近づける

文の意味を正しく伝える上で、係る言葉と受ける言葉の位置は重要。主語と述語、修飾語と被修飾語は、基本的に近づけて置くようにします。

 

〈例〉

✕  一気に後半、彼らの代表曲あ次々に披露され、会場のファンの熱気が上昇した

〇 後半、彼らの代表曲あ次々に披露され、会場のファンの熱気が一気に上昇した

 

原文では「一気に」という勢いのある修飾語が前に出ていますが、それを受ける言葉がいつまでたっても現れないため、読者にストレスを与えます。

 

〈例〉

△ なぜ、引退を決意した前作から10年あまりのブランクを経て、彼は再び歌う心境になったのか

〇 引退を決意した前作から10年あまりのブランクを経て、彼はなぜ再び歌う心境になったのか

 

原文では「なぜ」という問いかけから、それを受ける「なったのか」まで距離があるため、読者にストレスを与える表現になっています。正しく誤読の少ない文にするには、係り受けの距離を縮めるのが基本原則です。

 

 

10.修飾語句は大きく長い順に

〈例〉

✕  貴重な80年前の保存状態がいい直筆原稿が発見された。

〇 保存状態がいい80年前の貴重な直筆原稿が発見された。

 

複数の修飾語句を並べるときは、原則として長いものを先に短いものを後ろに置きます。原文では、「直筆原稿」に「貴重な」「80年前の」「保存状態がいい」と3つの語句が係っています。「長いものから先に置く」原則を覚えておけば、ミスを避けやすくなります。

 

〈例〉

△ 幕張メッセavexの主催イベントが6月20日開催された。

〇 6月20日幕張メッセavexの主催イベントが開催された。

 

意味合いとしてより大きな状況を示すものは、先に並べたほうがすっきりします。「6月20日に」を先に出し、日付、会場、催しと、大きな状況から個別の状況へと順番を整理して並べ直しました。多くの場合、時を表す表現は先に出したほうがわかりやすくなるでしょう。

 

 

11.属性を問う主語は「こと」で受ける

〈例〉

✕  この作品の大きな特徴は、ゾンビをモンスターとしてではなく、日常に存在する厄介事として扱っている

〇 この作品の大きな特徴は、ゾンビをモンスターとしてではなく、日常に存在する厄介事として扱っていることだ。

 

例文を構造に還元して主語と述語を取り出してみると、「特徴は扱っている」となり、意味が通りません。主語に「特徴は」「長所は」「ポイントは」と属性を問う言葉が来たら、述語は「こと」や「「点」などの名詞で受ける必要があります。そこで「扱っていることだ」と、動詞に「こと」を付けて名詞にしました。

「重要な点は」「最初に思ったのは」「感じたのは」のように、主語が「点」や「の(こと)」を含んでいる場合も、同じように名詞で受けます。

 

 

12.受動と能動をはっきり意識する

主語と述語のかみ合わせで気を付けたいのが、能動と受動(受け身)の選択です。

 

〈例〉

✕  吉永裕ノ介ブレイクブレイド」の最新14巻が、本日4月11日に発売した

〇 吉永裕ノ介ブレイクブレイド」の最新14巻が、本日4月11日に発売された

 

例文では、単行本のような無生物の主語が、能動的に「発売」という行為をすることはあり得ません。発売するのは出版社なので、単行本は「発売される」「発売された」となります。「リリースする」「開催する」「公開する」といった動詞も、同じ混乱が起きやすい言葉です。

 

 

13.おまとめ述語にご用心

ひとつの述語がいくつかの主語や目的語をまとめて引き受ける場合があります。「弁当を買い、菓子を買い、飲み物を買う。」と書くより、「弁当や菓子や飲み物を買う。」と共通の述語でまとめたほうがスマートなのは明白ですが、述語と組み合わせに問題あ生じることがあるので注意しましょう。

 

〈例〉

✕  彼はギターもベースもドラムも弾けるマルチプレイヤーです。

〇 彼はギターもベースも弾けるし、ドラムもたたけるマルチプレイヤーです。

〇 彼はギターもベースもドラムもたしなむマルチプレイヤーです。

 

「ギターが弾ける」とは言いますが、「ドラムが弾ける」とは言いません。ドラムだけは「たたく」という動詞で受けるべきです。あるいは、「たしなむ」と目的語すべてに対応できる言葉に置き換えてもいいですね。

 

話し言葉のように思いつくまま列挙していくと、最初のほうに指示した言葉が宙に浮いていることがよくあります。習熟するうちに、どれが主語でどれが述語なのか把握しながら書き進められるようになります。

 

 

14.情報を列挙するときは述語のレベルを合わせる。

複数の誤字を列挙するときは、並べる要素のレベル、すなわち概念の大きさや性質を揃えましょう。

 

〈例〉

✕  彼女はジャズR&Bチャック・ベリーから影響を認めている。

〇 彼女はジャズR&Bロックンロールから影響を認めている。

〇 彼女はジャズR&Bに影響を受け、特に影響を受けたミュージシャンとしてチャック・ベリーの名をあげた。

 

ひとつ目の例文は、ジャンルと個人名が同レベルで並べられているので、違和感を抱くタイプのミスです。ジャンルに揃えたり、ジャンルと個人名で分けてもいいでしょう。

 

〈例〉

✕  このZINEは展示期間中のほか、オンラインショップその他書店などで販売される。

〇 このZINEは展示会場のほか、オンラインショップその他書店などで販売される。

 

原文では、期間と場所で概念が揃っていません。ひとまず「展覧会の会場」と変更して、すべて場所に揃えました。

 

〈例〉

✕  最新情報を掲載し、グッズ販売のために公式サイトが開設される。

〇 最新情報を掲載し、グッズ販売するために公式サイトが開設されている。

〇 最新情報の掲載やグッズ販売のために公式サイトが開設されている。

 

原文では、「最新情報を掲載し」が動詞、「グッズ販売」が名詞で品詞が揃っていません。それぞれ動詞のみ、名詞のみで揃えました。

 

資料に載っているから、取材対象がしゃべったから、といってすべてを原稿に盛り込むのではなく、どれを拾象するかという、ナタのふるい方こそ手腕が問われるものです。いま書き連ねている要素はほんとうに列挙したほうがテーマを伝達できるか、惰性で書き連ねていないか。それぞれの言葉が対等の関係で並べられているかを確かめてください。

 

 

15.列挙の「と」「や」は最初に置く

〈例〉

△ 7日間の会期のうち、1日目2日目4日目7日目に出席する予定です。

〇 7日間の会期のうち、1日目2日目、4日目、7日目に出席する予定です。

 

英語で3つ以上のものを並べたときは「A, B, C, and D」ですが、日本語では「AとB、C、D」と最初の情報のあとに女子を置くのが基本です。話し言葉では、原文のようにすべてに助詞を挟むこともあります。ほかにも「や」「とか」「に」「および」も同様です。

 

 

16.並列の「たり」は省略しない

〈例〉

✕  彼はバイトをしたり受験勉強をして毎日を過ごしていた。

〇 彼はバイトをしたり受験勉強をしたりして毎日を過ごしていた。

 

並列の動作を示すとき、「~たり、~たり」というように助詞「たり」を繰り返し使って表現することがあります。例文では、バイトをすることと、受験勉強をすることが並列の関係で、どちらも「して」という動詞に係っています。

 

〈例〉

事故にでも遭ったりしたら大変だ。

 

この「たり」は、提示した情報以外に類似の要素があることを例示しています。さまざまなアクシデントが考えられる中で、「事故に遭うこと」をひとつの例としてあげる使い方です。少し紛らわしいのが、ひとつの文に2つ以上の動詞が対等に並んでいる場合は、並列の「たり」だということです。

 

 

17.主語の「は」と「が」の使い分け

「は」と「が」はどちらも主語を示す機能を持つ助詞ですが、「は」には「主語の提示」より大きな機能があります。このため、「が」のほうあ主題を限定する機能が強く、「は」のほうがさまざまな含みを持つ表現になります。「は」は、「~についていえば」と言い換えても成り立ちます。

 

〈例〉

「空は青い」→「空というものは青いものだ」と主題に対する一般論を述べる感覚

「空が青い」→ 目の前の減少をありのままに描写する感覚

 

また、「は」には対比の意味もあります。

 

〈例〉

ポール・マッカートニーは1年ぶりに来日する(が、アーノルド・シュワルツェネッガーは来日しない)。

 

対比を表す用法も、結局は「主題の提示」から派生しています。例文では、類似のいくつの可能性の中からひとつを取り上げています。

これに対して「が」は、主語の適用範囲が狭く、明確です。

 

〈例〉

ゲームをするとき、よくイライラしている。

ゲームをするとき、よくイライラしている。

 

「父は」の場合、イライラしているのも父です。「父が」とすると、そこで係り受けが切れて、イライラしているのは母か私かもしれない状態になります。

「は」と「が」の使い分けで迷ったとき、はっきりと主語を提示したいときは、「が」を選択するといいでしょう。

 

 

18.時間にまつわる言葉は「点」か「線」かに留意する

時間表現には、ある瞬間、つまり時点を示す「点」の表現と、流れや幅を持つ「線」の表現があります。

 

〈例〉

✕  4月15日から 発売される

〇 4月15日から 販売される

〇 4月15日 発売される

 

原文の「から」は、ある時点からの継続的な時系列を表す「線」の助詞です。一方で「発売」は「商品が売り出されること」を指しているので、一瞬の時点を示す「点」の表現です。助詞「から」(線)に合わせるのであれば、商品が売っている状態を表す「販売」がいいでしょう。「発売」(点)に合わせるならば、助詞は時点を示す「に」に変えるべきです。

 

〈例〉

どんな経験をしたか、仕事のやりがいや幸せについて深く掘り下げる

どんな経験をしてきたか、仕事のやりがいや幸せについて深く掘り下げていく

 

時間の経過するニュアンスを強めるために便利なのが、「いく」「くる」といった補助動詞です。「した」「掘り下げていく」にも時間の概念が含まれていますが、「してきた」「掘り下げていく」だと時間の流れがより強調されていることがわかると思います。