読んでもらう工夫 第5章

第4章では、体言止めや指示語を使って文字数を節約したり、約物でポイントを強調したり。いずれも文章表現には使い勝手のいいテクニックをご紹介しました。しかし同時に、用法用量を守らなければ、どんな薬も毒となって読み味を下げ、読み手を完読から遠ざけてしまうでしょう。

最終章にあたるこの第5章では、現場向けの表面的なテクニックと、さまざまな種類の文章に対応する力について紹介していきます。

 

 

1. 具体的なエピソードを書く

同じネタで複数の記事が出ると、どうしても価値が薄まってしまいます。そんな中でもポテンシャルを持った記事は、ライブや会場のレポート、現場取材もの、インタビューや独自コメントといった、そこでしか読めない文章です。固有でオンリーワンな存在ことが、強く読者を引きつけ、メディアそのものの強度を上げます。

 

独自性はそこで具体的に起きた事実やエピソードにこそ宿り、見たり聞いたりしたありのままを書けば、なにより強いオリジナリティが獲得できるのです。

 

客観性を呼び込むために役立つのが、セリフや会話の引用です。事実の積み重ねが、臨場感を生み、それがそのまま読者の興味を引く、オリジナルな文章になっているのです。

 

 

2. 主観の押し付けは読者を白けさせる

〈例〉

△ ライブ当日は、待ちに待った彼らのデビュー30周年記念日。なんと約9年ぶりの日本武道館公演となったこの日、全国から1万1000人ものファンが集結し、バンドの❝30歳❞を祝った。前田亘輝(Vo)は「今日がTUBEの30歳のバースデーになります!」と感動的な挨拶を披露。ファンは感激の渦に包まれた

 

書き手が盛り上がれば盛り上がるほど、読者を白けさせてしまいます。感動的な出来事は、客観的な状況を丁寧に描写するだけで伝わります。自分の感動を表現するのではなく、読者が感動を読み取れるように書くべきです。

 

〈例〉

〇 ライブ当日は彼らのデビュー30周年記念日。約9年ぶりの日本武道館公演となったこの日は全国から1万1000人のファンが集結し、バンドの❝30歳❞を祝った。前田亘輝(Vo)は「今日がTUBEの30歳のバースデーになります!」と挨拶し、ファンから大きな拍手を浴びた

 

過剰な表現を取り除き、事実を淡々と記述しました。「ファンから大きな拍手を浴びた」は客観的事実ですが、ファンの感激を結果的に伝えています。「主観ではなく客観」「思いではなく事実」をモットーに記事を書きましょう。

 

 

3. 人物名で始めると目を率いやすい

文章のタイトルや書き出しは、人物名にすると目を引きやすい傾向があります。同じ固有名詞でも、ヒト、コト、モノの順に注目される度合いが高まります。

 

タイトル付けはセンスの部分が大きいため、方法論として確立するのはなかなか難しいです。それでも読者の目を引くひとつのテクニックとして、「人物名始まりはキャッチー」と覚えておいて損はないです。

 

 

4. あえて閉じた言葉で読者との距離を縮める

第4章6項で、業界用語や仲間内の符丁など「閉じた言葉」は極力使わず、使う場合は説明を添えるできだとお伝えしました。ここでは上級者向けにまったく逆のテクニックをお伝えします。

 

特にカルチャー系のコンテンツの場合、「閉じた言葉」は、あえて使うことで特定の読者との距離感をピンポイントで縮める、親密さを醸成させるツールになってくれます。アニメやマンガならセリフ、音楽なら歌詞というように、ファンだけがわかる引用をすると、特定の読者と強い関係性を築けます。

 

だだし使用する場合は、媒体と読者の属性をよくよく見極め、滑った強がりな表現にならないよう、最新の注意を払ってください。

 

 

5. 名詞と呼応する動詞を選ぶとこなれ感が出る

名詞と動詞にはお互いを求め合うものが数多くあり、こういった限定的な関係性のことを「呼応する」と呼びます。汎用性の高い言葉に用いるより「呼応する」言葉を用いたほうが、こなれた表現になる傾向があります。

 

◆呼応するの例

軽口を「たたく」

恋に「落ちる」

コーヒーや紅茶を「淹れる」

抹茶を「点てる」

洗濯機を「回す」

将棋を「指す」

 

呼応の反対、もっとも汎用性の高い動詞が「(と)なる」です。あらゆる述語が「となる」「となった」で書けてしまいます。

 

〈例〉

✕ 高橋留美子の短編集「鏡が来た 高橋留美子短編集」が7月17日に発売となる。収録されているこは、ビックコミック週刊少年サンデー(ともに小学館)に掲載された短編6作品となる。カラーページは雑誌掲載時のものの再現となった

〇 高橋留美子の短編集「鏡が来た 高橋留美子短編集」が7月17日に発売されたビックコミック週刊少年サンデー(ともに小学館)に掲載された短編6作品を収録。カラーページは雑誌掲載時のもが再現されている

 

「となる」を多用すると、あいまいな読み味になってしまいます。それぞれを適切な固有の動詞に置き換えることで、より文脈がタイトに伝わります。

 

 

6. 数字を入れると具体性が増す

日付、年代、時間、数量、大きさ、個数、価格など、数字で表現できる箇所は、できるだけ具体的な数字を入れたほうが訴求力のある文章になります。

 

〈例〉

△ 彼にとって久しぶりの野外ライブとなる。

〇 彼にとって20年ぶりの野外ライブとなる。

 

 

7. タイトルは切り口の提示から

タイトルは文章のテーマや切り口を端的に提示するものですから、第1章でいう「テーマと主内容」がそのままタイトルの素案になるでしょう。

 

〈素案〉

小山宙哉真心ブラザーズと「宇宙兄弟」をテーマに話す、たった50人のプレミアムなイベント

 

状況に応じて「集中」か「拡散」、真逆の考え方のどちらかを選択します。

 

〈集中〉

小山宙哉が「宇宙兄弟」新刊発売記念でプラネタリウムトークイベント

〈拡散〉

宇宙兄弟小山宙哉と真心が50人限定トークイベント王子にて

 

「集中」の例はマンガ家「小山宙哉」のことにフォーカスを当て、ミュージシャン「真心ブラザーズ」とイベントの概要についてはばっさりと捨てました。マンガ家に関心がある層は、強く響きます。

一方「拡散」の例は、ラーメンでいえば全部乗せです。要素ひとつひとつの魅力や情報量は減少しますが、広い層にアピールできる可能性があります。

 

・限られた文字数に注目要素を盛り込む

表面的なテクニックとして「人物名始まり」や「閉じた言葉」、具体的な数字など、注目されやすい要素を盛り込むことが有効です。限られた文字数の中でアピールするという意味では、体言止めはもちろん、「助詞終わり」の手法もよく使われます。

 

・見出しも約物に頼りすぎない

タイトルにおいては、約物の使用ルールを緩め、かぎかっこやダブルコーテーションの使用について、ある程度は許容しています。最近ではいくらかっ減りましたが、文末にエクストラメーションを使った強調は禁止にしています。強調したい部分をもっとも容易に協調したつもりになれる魔法の記号です。

 

 

8. 記事単位の重複に注意する

定番の構成パターンとして「大事な話題から言う」を提示しましたが、マンネリは禁物です。気付くと固有名詞が入れ替わっただけの、テンプレート化した記事を量産してしまうことになります。

例文のようなテンプレート記事ばかり書いていると、すぐに気付かれてしまいます。手癖でやっつけず、どこかしら変化を付けていく気概を持ちたいですね。

 

・ちょっとの工夫を続けることが上達の近道

文章を書くことがほんとうに繰り返しの作業になると、読み手に飽きられる以上に、書き手としてどんどん苦痛になってくるでしょう。毎回ちょっとだけの工夫、ほんの少しの変化を織り込んでいくことが、長く書き続けるコツです。

 

 

9. インタビューの基本は「同意」と「深掘り」

インタビューで大事なことは「同意」と「深掘り」たった2つだけです。私が考える理想のインタビューは、インタビュアーが「すごいですね」と「それってどういうことですか?」の2つしか言わない状態です。

 

「すごいですね」は「なるほど」でも「ははあ」でもいいのですが、同意の表明です。インタビューに前向きの推進力を与え、相手に次の言葉をしゃべってもらう呼び水として機能します。

「それってどういうことですか?」は深掘り、つまりある話題についてもっと詳しく具体的に教えてほしいという意思の表明です。

 

インタビューはこちらの意見をぶつける場でも、言ってほしいことを言わせる場でも、相手が隠していることを暴く場でもありません。相手の話したいことを、より豊かに聞き出すことが本質です。

 

・予想外の答えにこそ「おいしい」内容が現れる

事前にストーリーや質問事項を想定しておくことは大事な必須のプロセスです。想定問答と異なった答えが返ってきたときは、「やった」「おいしい」と思ってください。決め込んだストーリーが想定外の話題で壊されたら、そのインタビューはたいてい成功します。

 

インタビュー記事だけではありません。書きたい内容を揃える、広い意味での取材をするためには、インタビューの精神は有効です。

 

 

10. 感想文やレビューを書くには

感想文やレビューのような主観的意見を述べる文章でも、材料を集めて、テーマを立てて、主内容を固めるプロセスは一緒です。いちばんの違いは、自分を取材対象にすること。取材おマイクを自分に向けて、自分が感じたことを収集していくわけです。ここで有用なのが、前項で紹介した「同意」と「深掘り」の質問法です。

 

具体的には取材メモと同様に感想メモを用意し、まずは思ったことを書きます。ここで繰り出すべきは自分への「同意」。感想の質や一貫性などは気にしません。

次いで項目ごとに「それってどういうこと?」という自分ツッコミを入れていきます。自分ツッコミの結果、主観的な感想に根拠が与えられ、話題がどんどん深まっていきます。

 

「ここでしか読めない」文章の独自性がひとつの武器となってくれます。したがって感想文やレビューのような文章では、客観的事実より前面に主観的意見を配置し、それを事実で補強していくような順番が望ましいでしょう。

 

 

11. 長い文章を書くには

第1章では構造シートを使って文章を書く方法について解説しましたが、これは基本的に500~1,500文字程度の記事を書くことを想定した手法です。長い文章はいくつかの章に分割して、章ごとに構造シートを作ります。全体を設計するための「構造シートの構造シート」と呼んでもいいでしょう。

 

◆章単位の構造シート

テーマ:ceroがダブルアンコールで見せたサービス精神

1.ハイライト                  B

2.場面Aについて       B

3.場面Bについて       B

4.アンコールについて      A

5.結び          C

 

◆章ごとの構造シート

アンコールについて

1.本編終了後の演出                B

2.アンコール1                    B

3.まさかのダブルアンコール       B

4.繰り返されるアプローズ        A

 

ベテランであれば小単位の構造シートだけで書き進めることもできますが、それでも1万字を超えてくると流れをつかみながら細部を組み立てるのが困難になってきます。

数万字レベルの長文を書くときは、おっくうがらずに2重の構造シートを用意しましょう。

 

 

12. 企画書を書くには 

構造シートで文章をロジカルに書く方法は、ビジネス的な文書にも適用できます。

企画書もまず材料を集め、テーマを決めて、主内容を決めていきます。

 

●「企画概要」

企画書こそ「大事な話題から言う」べきです。冒頭で企画の内容をかいつまんで見せてしまいます。「アウトライン」と題することも多いでしょう。

 

●「企画意図」

企画書では概要の直後にテーマを配置するのがコツです。文章と同じく、全体のパーツひとつずつが、ここで書かれた意図に沿い、奉仕するように設計します。

 

●「企画内容」

本文にあたります。提案する企画によって項目は変わってきますあ、5W1Hの法則を思い出すとスムーズに項目が浮かぶはずです。5W1Hに加えてもうひとつのH、「How much(くらかかるのか)」を必ず記すようにしましょう。なおWhyは「企画意図」に相当します。

 

・Word派かPowerPoint派かに合わせて書く

世間の企画書作成は、WordまたはPowerPointの二大勢力に引き裂かれます。表現の仕方は違っても、構造シートの使った考え方、組み立て方はどちらも一緒です。

 

       分野  /  紙面  /  内容  /  長さ

【Word派】出版系 / タテ位置 / テキスト中心 / 短いほど良い

PowerPoint派】広告系 / ヨコ位置 / イメージ中心 / 長いほど良い

 

・構造的記述をマスターすると仕事もうまくなる

文章力が向上すると、仕事そのものメキメキできるようになってくる現象があります。文章を書くにあたってのテーマ、主内容による構造的記述をマスターすれば、そのプラモデル化の方法論をさまざまな場面に適用することができます。

 

 

13. レイアウトの考え方

レイアウトを組むにあたっては、要素だけを大まかに示した「ラフ」と呼ばれれる指示書を作ることが一般的です。ラフを書く際、文章を書くときのメソッドが適用できるので、「いきなりラフを引かない」ということをお伝えします。

 

いきなりラフを引き始めると、大変難易度あ高い作業で職人技といってもいいでしょう。つまり、ラフを引く前に構造シートを作ればいいのです。まずページのテーマを書き、それに準じて必要な要素、すなわち図版とキャプション、大見出し、リード、本文などをリストアップしていきます。そののち大中小の重要度を付けます。この状態を「要素ラフ」と呼んでいます。

 

◆要素ラフ

図版A+キャプション

図版B+キャプション

図版C+キャプション

大見出し(23文字)

リード(120文字)

本文(600文字)+小見出し

 

 

14. すべてのルールは絶対ではない

確固たる狙い、意図を織り込んでルールを超えていく意志があるとき、私は基本的にそれをすべて認めようと思っています。

 

あるインタビューで「~とかしてしまったりしたことがあるのですが。」という文末の意図として、こういう持って回った言い方をするマンガ家だから、どうしてもその口調を伝えたい、と。そういうことなら仕方ありません。

 

読者を完読に連れていけるように、基本ルールを身に付けながら、常に新しい表現を模索し、柔軟にルールを使いこなせるようになってください。

 

もっとスムーズに 第4章

第3章では、「完読」される文章目指した、具体的な改善ポイントを示しました。

文章には品の良さや丁寧さというものが求められると私は思っています。ここでは、「適切なスピード感のある文章」について詳しく解説していきます。

 

 

1. スピード感をコントロールする

多くの文章教室では「文章で大事なのはスピード感」「一文は短く」「冗長な表現はNG」といった指示がなされています。しかしその先にある真髄は、「適切なスピード感にコントロールしよう」というメッセージなのです。

 

文字におけるスピード感は、情報量÷文字数で割り出すことができます。

文章ああまりにも冗長なら読み手は離脱しますし、ソリッドすぎてもぶっきらぼうで読む気が失せてしまいます。目指すべき「完読」のために、基本コンパクトにまとめつつ、無愛想にならないてい程度の丁寧さをもって読者をおしまいまで導かねばなりません。

まずはスピードが出せるようになって、その後適切にコントロールすることを覚えましょう。

 

 

2. 体言止めは読者に負担を与える

体言止めとは、文末を名詞や代名詞で終わらせるテクニックです。文字数が減ってタイトになる上、文末にバリエーションを与えてくれ、リズムを整える効能もあります。しかし、体言止めには読み味を落とす危険な側面があるのです。

 

省略された部分の言葉は何なのか、読者は瞬時に脳内で演算して埋めてくれているのです。この隠れたものを瑠偉測する脳の働きが読者を疲れさせ、ひいては文章から離脱していく原因となっていきます。

 

体言止めは、便利だけど読み味を落とす、諸刃の剣と覚えてください。

 

 

3. 行きすぎた名詞化はぶっきらぼうさを生む

文章をソリッドにする効果がありますが、省略によるぶっきらぼうさも生まれてしまいます。体言止めのメリット・デメリットにも似ています。

 

〈例〉

△ 赤塚不二夫生誕80周年記念長編劇場アニメ。

〇 赤塚不二夫の生誕80周年を記念した長編劇場アニメ。

 

原文には全く助詞などのつなぎがなく、長い名詞になっています。意味は通じますが、音読したときに息切れしてしまうのではないでしょうか?省かれた表現を補足すると、スムーズな文章になります。

 

〈例〉

✕  初回生産限定スペシャル特典カード封入。

△ 初回生産のみ限定スペシャ特典カードが封入されている

〇 初回生産限定スペシャル特典カード封入されている

 

原文は完全な名詞化。次の文は、省かれた表現を可能な限り補足したものです。最後の文は、「初回生産限定」と「スペシャル特典カード」を熟語として残し、「封入」の体言止めをやめました。

 

名詞化の親戚といえるのが、「~化」「~的」「~性」などの言葉を足して熟語化する表現です。「~ような」「~らしさ」を熟語的に表現する用法もこの仲間でしょう。すでに辞書に載っているオーセンティックな単語はまったく問題ないですが、オリジナリティのレベルが上がってくると、文面にあざとさが漂い始めます。

 

 

4. 指示語は最小限に

指示語とは、前の文脈で提示させた言葉を指し示して言い換える言葉です。指示語が続くと、読み手はいちいちそこに入る言葉を判断しながら読み進めなければいけないので疲れますし、続きを読む気も失せてしまいます。

 

「こそあど言葉」はなるべく使わず、具体的な言葉で文章を構成していく習慣を身につけましょう。

 

 

5. 「今作」「当サイト」…指示語もどきに注意

指示語と同じ意味で注意してほしいのが、指示語のように振る舞う言葉です。

 

◆指示語もどきの一例

今:今作/今回/今年度/…

前:前作/前回/前年度/…

本:本作/本年度/本シーズン/…

昨:昨年度/昨シーズン/…

当:当作/当劇場/当サイト/…

 

これらの指示語もどきも、多用すれば指示対象があいまいになり、読者の頭を混乱させる表現になります。一見すっきりとして見えますが、固有名詞を出したほうが格段とわかりやすくなります。

固有名詞は、くどくなるギリギリまで繰り返したほうがいいです。文章から具体性が失われず、読み手に固有名詞が浸透していきます。

 

 

6. 一般性のない言葉を説明抜きに使わない

専門用語や業界用語、ジャーゴン、符丁、俗語、隠語といった、一般性の低い、限られたコミュニティでしか通じない言葉を私は「閉じた言葉」と呼んでいます。こういった言葉はなるべくかみ砕いたり、説明を添えたりすることで広い理解を促すべきでしょう。

 

またクリエイティブ系の人々が使いがちな、「刺さる表現」「攻めた内容」といったクセのある形容詞、ビジネスマンが使いがちな「アグリーした」「ジャストアイデアだが」といったオトナ語も閉じた言葉といえます。

 

 

7. わからないことはひと言でも書いてはいけない

どんなジャンルの文章であれ、自分が理解していない言葉を一語たりとも書いてはいけません。文脈に大きく関係ないとき、話し相手が語った固有名詞、あるいは参考資料にある見慣れない言葉を左から右にそのまま書いてしまうこともあるかもしれません。

第一に読者に事実を伝えるサービス精神において、第二にリスクマネジメントの観点において、生返事や知ったかぶりは絶対にダメです。

 

「こういうことだろう」でなんとなく書かず、必ず検索して概要は理解しておきましょう。「これ何?」とツッコミ体質になることがライターの必須条件だと、私は常々考えています。

 

 

8. 「企画」「作品」…ボンヤリワードに注意

具体性に欠ける言葉を私は、「ボンヤリワード」と呼んで取り扱い要注意の単語に指定しています。抽象度が高い上に使い勝手がいいのですが、それゆえインフレを起こしがちですし、使うほど文章の輪郭が曖昧になっていきます。

 

◆よく使われるボンヤリワード

企画、作品、楽曲、番組、物語、コンテンツ、ストーリー、ステージ、プロジェクト、etc…

 

〈例〉

△ 貞本義行によるマンガ版「新世界エヴァンゲリオン」の完結を記念した企画が実施されている。

〇 貞本義行によるマンガ版「新世界エヴァンゲリオン」の完結を記念して、複製原画をプレゼントするキャンペーンが実施されている。

 

例文では、踏み込んだ補足説明を加えることで具体性を高めました。指示代名詞のように使っている場合は、具体的な言葉に置き換え、説明不足な場合は情報を足しましょう。

 

 

9. 「らしさ」「ならでは」には客観的根拠を添える

「~らしさ」「~ならでは」「~おなじみ」といったフレーズは、暗に読み手に認知を要求しているため、どうしても独善的なニュアンスが漂ってしまいます。

広く世間に情報を発信するなら、「知っていて当たり前」といった考えは傲慢です。もし既知を前提としたフレーズを使うとしたら、必ず客観的な根拠も添えることを心がけてください。

例えば「おいしい」は明確に主観的なので気付きやすいですが、「達者」「人気」「豪華」といった、主観的判断を伴う単語は要注意です。

 

〈例〉

✕  人気コミック『新宿スワン』が豪華キャストにて実写映画化される。

〇 シリーズ累計800万部の人気コミック『新宿スワン』が、日本アカデミー賞受賞俳優・綾野剛主演で実写映画化される。

 

 

10.トートロジーは子供っぽさを呼び込む

主語と述語が同じところにある主述同一文を「トートロジー」と呼びます。基本的には回避すべき文型です。

 

〈例〉

✕ その花は、花です。

〇 その花は、南国に咲く花です。

 

原文は、違和感を感じる文章ですよね。改善文では、修飾語の「南国に咲く」を付け加えて、違和感を薄めました。

しかし構造に還元すれば主語と述語が同一であり、それゆえに、敏感な人なら一抹の間抜けさを感じ取ってしまいます。

 

〈例〉

✕ そのアーティストは現在もっとも影響力を持ち、2016年には大規模なワールドツアーを予定しているアーティストだ

〇 そのアーティストは現在もっとも影響力を持つ10人に選ばれた。2016年には大規模なワールドツアーを予定している。

 

原文で修飾を外せば、「アーティストは、アーティストだ」である、スマート表現とはいえません。「お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだよ」といった具合に、特別なレトリックとしてトートロジーを使う場合もありますが、一般的な文章では、読み手に違和感を与えてしまいます。

 

 

11.文頭一語目に続く読点は頭の悪そうな印象を与える

文頭一語目の直後には読点を打たないほうが、多くの場合、スマートに感じます。

特に危険なのは、一語目が接続詞のとき、文頭で主語を形成しているとき、間の抜けた印象になります。いきなり読点を打つと、内容を考えながらしゃべっている人の口調に似てしまうからだと私は考えます。

 

〈例〉

△ 私は、その日大阪へ旅行に出ていました。

〇 私はその日、大阪へ旅行に出ていました。

 

 

12.約物の使いすぎは下品さのもと

約物とは、文字や数字以外の記号のことです。かっこ類いや、クエスチョンマーク、リーダ、ダーシ、中黒、忘れがちなところでスペースも約物です。

 

約物の例

!  ?  ~  -  ・  ー ()「」【】『』[]  ❝❞ 〈〉《》{} …

 

かぎかっこは会話文や固有名詞を明示するための約物ですが、キャッチコピーなどでしばしば、文字列を強調するために使用されているのを見かけます。ダブルコーテーション(❝❞)も、本来は「いわゆる」といった意味を表す記号であり、一般的ではない特殊表現に対して使うのがルールです。エクストラメーション(!)で強調するのも、安易な表現と言わざるを得ません。

約物に頼らずとも要素を整理し、協調したいことは協調して伝えられるようにしましょう。

 

 

13.丸かっこの補足は慎み深さとともに

〈例〉

✕  主人公のタケシ(設定では未来からタイムスリップしてきた)は、予知能力者おして祭り上げられてしまう(未来人ゆえにこれから起きる出来事を知っているため)

〇 未来からタイムスリップしてきた主人公のタケシは、これから起きる出来事を未来人ゆえに知っているため、予知能力者おして祭り上げられてしまう。

 

丸かっこを用いた補足的な説明は、最小限に抑えましょう。文章に組み込めなかった言葉を補足するのに便利ですが、多用するのは自らの文章構成力が低いと宣言しているようなものです。本来は、注記や読みを示す機能が与えられていますが、それもあまり連続するのは考えものです。

できるだけシンプルな構造と文で書くように意識して、約物に頼らず協調や整理ができる筆力を養いましょう。

 

 

14.可能表現に頼らない

「~できる」「~可能だ」「~れる」といった可能表現は、なるべく減らすべきフレーズのひとつです。モノの説明をすることき、可能表現は大変使いやすく、なんならすべての文末に見かけるくらい頻出してしまうからです。

なにしろモノの特性に「できる」「可能だ」と付けるだけで文が成り立つので、一切の工夫もなしに書き進められます。

言い換えのひと手間が、文章に丁寧な印象を与えてくれます。

 

〈例〉

✕  このボールペンは滑らかに書くことができる。ノックをしてペン先を押し出すことができる。クリップで手帳に挟むこともできる。胸ポケットに収納することも可能だ

〇 このボールペンいちばんの魅力は滑らかな書き味にある。ペン先はノックをすると押し出される仕組みだ。クリップは手帳に挟んでもいいし、胸ポケットに収納するときにも役に立つ。

 

 

15.便利な「こと」「もの」は減らす努力を

〈例〉

✕  自分のことを理解することで、成長することができるようになる。

〇 自分を理解すれば、成長できるようになる。

 

語句に「こと」を付けて名詞化する用法はとても便利ですが、どんな事柄にも適用できるため、重複しやすく、表現もくどくなりがちです。

 

〈例〉

✕  運動をすることで、健康になる。

〇 運動をする、健康になる。

 

「ことで」を使わずに、別の表現を探したほうがすっきりした印象になります。

 

〈例〉

△  よく眠ることが必要だ

〇 よく眠る必要がある

 

「こと」を取るだけでなく、続く述語にも手を加えました。ときにはこのように分解して、重複を避けるといいでしょう。

 

〈例〉

△  卓上電気ポットは手軽にお湯を沸かすために便利なものだ。

〇 卓上電気ポットは手軽にお湯を沸かすために便利な道具だ。

 

「もの」も注意が必要な言葉です。あらゆるモノを表せるため、頼りすぎると表現がボンヤリします。具体的な名詞に差し替えたほうが、読み手の理解が深まる文になります。

 

 

16.なんとなくつなぎ言葉を使わない

〈例〉

✕  音楽をPCで聴く人あ増えてきた。そうした中、アナログレコードの再評価ブームが起きている。

〇 音楽をPCで聴く人あ増えてきた。そうした中、高音質データ配信サービスが人気を博している。

 

特に意味のないつなぎ言葉を、なんとなく使ってしまうことがあります。例文にある「そうした中」のもともとは、「そのような状況において」という意味で、前の文で提示された内容を受けるつなぎ言葉です。

 

〈例〉

△  お弁当のほうは温めますか。

〇 お弁当は温めますか。

 

「ほう」はなくても意味は通じます。口語的な表現ですし、丁寧にしているつもりで意味がないつなぎ言葉です。

 

〈例〉

✕  私は基本的に大丈夫です。

〇 私は大丈夫です。

 

「的」を付けた言葉は、語句の印象をソフトにする効果があります。特に「基本的に」「一般的に」などは、例外はある、と含みを持たせるためについ雰囲気で使いがちな言葉です。

 

〈例〉

△ 今日は雨でした。逆に明日は晴れるそうです。

〇 今日は雨でした。明日は晴れるそうです。

 

口頭的表現で、逆説でない文章につなぎに「逆に」を使うケースもよくあります。

話し言葉に影響されたつなぎ言葉は、論理を混乱させ、文章をくだけた印象にしてしまいます。

 

もっと明快に 第3章

第2章では、「完読」を目指して文章を磨く方法をご紹介しました。

ここ第3章では、さらに具体的に、さらに細部まで文章を磨くポイントをご紹介します。

 

 

 

1.身も蓋もないくらいがちょうどいい

多くの文章読本やライター講座では、「文章はなるべく短く」「余計な言葉を削って」「タイトでソリッドな表現を心がける」と教えています。この教えはある意味正しく、ある意味間違っています。というのも、訓練を受けていない方が文章を書くとおおむね冗長に書きがちです。だから「身も蓋もないくらいがちょうどいい」。完読のためほんとうに目指すべきは、適切な長さの文章、適度に締められた文章なんです。

 

初心者が冗長な文章を書いてしまう原因は、主に不安にあると私は思います。自信のなさゆえに断定を避けて濁したり、言い回しを和らげようと余計な表現を足したりする。もしくは無内容なのにさも意味のあることを言っている気になる。まるで薄められたサイダーのような、あいまいな読み味だけが積み重なっていきます。当然、完読されない文章になってしまいます。

そこでタイトな文章を書くいちばんの秘訣は第1章で説明した、テーマと主内容の項に戻って、話題と諭旨をしっかり組み立てることです。文章をタイトに、ソリッドに締めていくテクニックを身に付けて、心地よい読み味を出せるようになってください。

 

 

2.余計な単語を削ってみる

① 接続詞を削る

接続詞を見かけたら、まず削れないかと疑ってみてください。削っても意味が通じるなら、迷わずカットしましょう。また意味が通じないようであれば、文章の流れが絞れていないまま、接続詞の力で強引につなげているかもしれません。

 

② 重複を削る

重複チェック第2章で解説した通りです。

 

③ 「という」を削る

内容説明の意味を持つ「という」は、文をソフトな印象にするせいか多用されがちですが、大半は削っても問題ありません。

 

④ 代名詞を削る

固有名詞で始まり、それを受けた代名詞が何度も繰り返されている文章をよく見かけます。2回目以降に登場する人称大栄氏や指示代名詞は、省いても意味の通じるものも少ないです。主語を明確にするために使われている代名詞など、伝達のために最低限必要な言葉は削らないでください。

 

⑤ 修飾語を削る

過剰な副詞や形容詞も積極的に削りましょう。修飾語は文章に彩りを与える半面、冗長さに直結します。伝えたい内容があいまいになるだけでなく、余計な部分が悪目立ちしてくどい印象になることも。強調の副詞や形容詞でインパクトを与える場は絞るべきです。

 

 

3.余計なことを言っていないか

① 逆説以外の「が、」

逆説ではない「が、」で終わる節は、丸ごと削っても意味が通じない場合があります。必要なければ削りましょう。クッション言葉などメールなどでは円滑にコミュニケーションを円滑にする言葉使いも、事実を正しく伝える文章においては邪魔になります。

 

② 脱線

いくら面白いエピソードでも、「ちなみに」「余談ですが」と前置きをして話を長く続けると、読者は読解に混乱をきたします。「話を戻すと」という強引に方向修正するマジックワードがありますが、いざというときだけに使いましょう。

 

③ エクスキューズ

目に触れる場所で断定したり意見を述べたりすることは、大変勇気がいることです。

「あくまで個人としての意見ということを強調しておきたいが」「ひょっとしたらお気に召されない方もいるかもしれないが」といった言い訳の言葉を書いて、予防線を張って逃げ道ばかり作っていると、文章はどんどん冗長になります。

言い訳(エクスキューズ)は勇気を持って削りましょう。断定できないあやふやなことは、書かないほうがいいでしょう。

 

④ メタ言及

「注目すべきは」「私の知る限りでは」「これから話すことは」「繰り返しになるが」など、文中で文の読み方について誘導したり補足説明したりする言葉がメタ言及です。時々使うぶんにはいいですが、多用すると書き手の視点を押し付ける印象が強くなり、イヤミな文章になります。

 

⑤ 定型文・慣用句

紋切り型とも呼ばれていますあ、もっともらしさだけが欲しくて書かせたような言葉は、余分なだけにとどまらず、読んでいる人を白けさせてしまいます。身も蓋もないくらいがちょうどいい、と思って削りましょう。

 

 

4. 「が」や「だ」で文章をだらだらとつなげない

〈例〉

△ 初の海外ライブとなった台湾公演だが、現地のファンが多数集まり、会場は開演前から異様な熱気包まれていた。

 

〇 初の海外ライブとなった台湾公演には、現地のファンが多数集まり、会場は開演前から異様な熱気包まれていた。

 

接続助動詞の「が」には、2つの文章をあいまいにつなぐとても便利な機能があります。一方で、逆説のイメージが強い接続助動詞でもあります。原文は間違いではありませんが、「だが」まで読むと何か悪いことが起きたようにも読めます。「には」と順接でつないだほうが、ストレートで伝わりやすい文章になります。

 

〈例〉

△ 暑いので、待っているもの辛かったので、いったん家に戻ったので、到着が遅くなってしまった。

〇 暑くて待っているもの辛かった。いったん家に戻ったら、到着が遅くなってしまった。

 

話し言葉のように「で」でだらだらと文章を続けると、冗長そのものになってしまいます。区切るところは区切って、意味の単位をはっきりさせましょう。

 

「が」や「で」で連結させながら、言い切らないまま延々と話し続けるような書き方を「謡うように書く」と私は呼んでいます。ガールズトークにも似ています。

 

 

5. 翻訳文体にご用心

〈例〉

△ 私は休みを取ることができるでしょう。

〇 私は休みを取れるでしょう。

 

冗長表現として、私が「翻訳文体」と呼んでいる言葉使いがあります。海外文学の翻訳ものでよく見かける、回りくどい言い方のことです。

 

◆「することができる」が誕生した事情

be(→が) able(→できる) to(→こと) do(→する)

 

こういった、単語ひとつひとつに対応した日本語を当てはめようとする訳し方を逐語訳と呼びます。翻訳家が原文のニュアンスを丁寧に訳出することを狙ったものですが、実用的な文章ではどうしても冗長してしまいます。

 

〈例〉

△ 彼女は努力しようとしてきたわけではなかった。

〇 彼女は努力してこなかった。

 

翻訳文体は文学的ではありますが、冗長さに直結しやすい表現でもあります。関連して、学術論文のようなお堅い言葉使いも同じです。

 

〈例〉

△ テーマを考える過程においては、その内容が価値を有する検証することから開始するべきです。

〇 テーマを考えるときは、その内容に価値があるか確かめることから始めるべきです。

 

 

6. 濁し言葉を取る勇気を

なんらかの存在があることを示す「など」「といった」「ほか」「ら」。これらの言葉を、「濁し言葉」と私は呼んでいます。例えば、並列の情報が全部で8つあるとき、「〇や△などが」と濁して記述すると、一定のスマートさを得ながらも全体を述べられた気がします。ほかの要素におわせることで、事実に対してある種の誠実さが保たれます。

しかし、読者にとっては、なんだか輪郭がモヤモヤしてきて、あいまいな印象を受けます。一方で「〇や△が」と誠実さを切り捨てたときに得られる強さ、キャッチーさがあります。これを私は、「誠実さとキャッチーさの相克」と呼んでいます。

 

〈例〉

△ 7月11日22時より日本テレビにて放送される「しゃべくり007」に、菅田将暉らが出演する。

〇 7月11日22時より日本テレビにて放送される「しゃべくり007」に、菅田将暉出演する。

 

例文では、実際に菅田将暉さんだけが出演しているわけではありません。もし誠実さを重視するのであれば、出演者全員の情報を入れるべきでしょう。しかし、とても読みにくい文章になりますし、情報が分散してアピール力も弱まります。あえてひとりの出演者に絞り込み、キャッチーな印象を強めました。

 

物事をほんとうに誠実かつ正確に伝えようとすると、必ず歯切れが悪い表現になります。事実に誠実になればなるほど、キャッチーな言い切りができなくなります。

全情報を羅列するか、濁し言葉でまとめるか、濁し言葉で削るか。それぞれにメリットとデメリットがあり、状況に応じて選びます。ただ伝える相手の興味がはっきりしている場合、濁し言葉を使わない方法がもっとも強い表現となります。

 

完読してもらう原稿にするためには、情報を適切に取捨選択する必要があります。さまざまなパターンを検討しながら、誠実さとキャッチーさの、ほど良いバランスを探ってください。

 

 

7. 伝聞表現は腰を弱くする

〈例〉

✕  9月12日に青森・夜越山スキー場で開催されるといわれている野外フェスティバル「AOMORI ROCK FESTIVAL ~夏の魔物~」の出演アーティスト第3弾が明らかになったとのこと

〇 9月12日に青森・夜越山スキー場で開催される野外フェスティバル「AOMORI ROCK FESTIVAL ~夏の魔物~」の出演アーティスト第3弾が明らかになった。

 

文章に書く内容は、事実として断定できることばかりではありません。

原文では、公表発表された情報を伝聞調で伝えているので、締まりのない文章になっています。誠実さとキャッチーさをてんびんにかけて、言い切る勇気を持ちましょう。

 

ニュースでも新聞でも、取材をもとに伝える内容は、厳密にはすべて伝達情報です。裏が取れた事実や取材に基づいた話題は、人づてであろうと断定的に語っていいのです。

 

◆断定

~だ/~である/動詞・形容詞の終止形

 

◆推量

~らしい/~のようだ/~だろう/~と思われている/~と考えられている

 

◆伝聞

~だそうだ/~とのこと/~と聞いた/~といわれている

 

 

8.複雑な係り受けは適度に分割する

〈例〉

✕  赤塚不二夫の代表作「天才バカボン」の初長編アニメ化となる今作の監督を務めるのは、鷹の爪団などの個性的でナンセンスなアニメ作品を制作してきた奇才FROGMAN

 

例文は4行にわたって句点がない一文です。係り受けが入り組んでいて意味が取りずらい、読んでいて息切れする感覚があります。幹となる述語は「FROGMANだ」、主語は「務めるのは」です。

 

〈例〉

〇 赤塚不二夫の代表作「天才バカボン」が長編アニメ化されるのは、これが初めて。監督を務めるのは、ナンセンスなアニメ作品を制作してきたFROGMANだ。

 

「初」と「長編アニメ化」に分けて、「長編アニメ化されるのは、これが初めて」とし係り受けをほどきました。文を読み返して分かりにくいと感じたら、係り受けをバラしてみましょう。

 

 

9.係り受けの距離を近づける

文の意味を正しく伝える上で、係る言葉と受ける言葉の位置は重要。主語と述語、修飾語と被修飾語は、基本的に近づけて置くようにします。

 

〈例〉

✕  一気に後半、彼らの代表曲あ次々に披露され、会場のファンの熱気が上昇した

〇 後半、彼らの代表曲あ次々に披露され、会場のファンの熱気が一気に上昇した

 

原文では「一気に」という勢いのある修飾語が前に出ていますが、それを受ける言葉がいつまでたっても現れないため、読者にストレスを与えます。

 

〈例〉

△ なぜ、引退を決意した前作から10年あまりのブランクを経て、彼は再び歌う心境になったのか

〇 引退を決意した前作から10年あまりのブランクを経て、彼はなぜ再び歌う心境になったのか

 

原文では「なぜ」という問いかけから、それを受ける「なったのか」まで距離があるため、読者にストレスを与える表現になっています。正しく誤読の少ない文にするには、係り受けの距離を縮めるのが基本原則です。

 

 

10.修飾語句は大きく長い順に

〈例〉

✕  貴重な80年前の保存状態がいい直筆原稿が発見された。

〇 保存状態がいい80年前の貴重な直筆原稿が発見された。

 

複数の修飾語句を並べるときは、原則として長いものを先に短いものを後ろに置きます。原文では、「直筆原稿」に「貴重な」「80年前の」「保存状態がいい」と3つの語句が係っています。「長いものから先に置く」原則を覚えておけば、ミスを避けやすくなります。

 

〈例〉

△ 幕張メッセavexの主催イベントが6月20日開催された。

〇 6月20日幕張メッセavexの主催イベントが開催された。

 

意味合いとしてより大きな状況を示すものは、先に並べたほうがすっきりします。「6月20日に」を先に出し、日付、会場、催しと、大きな状況から個別の状況へと順番を整理して並べ直しました。多くの場合、時を表す表現は先に出したほうがわかりやすくなるでしょう。

 

 

11.属性を問う主語は「こと」で受ける

〈例〉

✕  この作品の大きな特徴は、ゾンビをモンスターとしてではなく、日常に存在する厄介事として扱っている

〇 この作品の大きな特徴は、ゾンビをモンスターとしてではなく、日常に存在する厄介事として扱っていることだ。

 

例文を構造に還元して主語と述語を取り出してみると、「特徴は扱っている」となり、意味が通りません。主語に「特徴は」「長所は」「ポイントは」と属性を問う言葉が来たら、述語は「こと」や「「点」などの名詞で受ける必要があります。そこで「扱っていることだ」と、動詞に「こと」を付けて名詞にしました。

「重要な点は」「最初に思ったのは」「感じたのは」のように、主語が「点」や「の(こと)」を含んでいる場合も、同じように名詞で受けます。

 

 

12.受動と能動をはっきり意識する

主語と述語のかみ合わせで気を付けたいのが、能動と受動(受け身)の選択です。

 

〈例〉

✕  吉永裕ノ介ブレイクブレイド」の最新14巻が、本日4月11日に発売した

〇 吉永裕ノ介ブレイクブレイド」の最新14巻が、本日4月11日に発売された

 

例文では、単行本のような無生物の主語が、能動的に「発売」という行為をすることはあり得ません。発売するのは出版社なので、単行本は「発売される」「発売された」となります。「リリースする」「開催する」「公開する」といった動詞も、同じ混乱が起きやすい言葉です。

 

 

13.おまとめ述語にご用心

ひとつの述語がいくつかの主語や目的語をまとめて引き受ける場合があります。「弁当を買い、菓子を買い、飲み物を買う。」と書くより、「弁当や菓子や飲み物を買う。」と共通の述語でまとめたほうがスマートなのは明白ですが、述語と組み合わせに問題あ生じることがあるので注意しましょう。

 

〈例〉

✕  彼はギターもベースもドラムも弾けるマルチプレイヤーです。

〇 彼はギターもベースも弾けるし、ドラムもたたけるマルチプレイヤーです。

〇 彼はギターもベースもドラムもたしなむマルチプレイヤーです。

 

「ギターが弾ける」とは言いますが、「ドラムが弾ける」とは言いません。ドラムだけは「たたく」という動詞で受けるべきです。あるいは、「たしなむ」と目的語すべてに対応できる言葉に置き換えてもいいですね。

 

話し言葉のように思いつくまま列挙していくと、最初のほうに指示した言葉が宙に浮いていることがよくあります。習熟するうちに、どれが主語でどれが述語なのか把握しながら書き進められるようになります。

 

 

14.情報を列挙するときは述語のレベルを合わせる。

複数の誤字を列挙するときは、並べる要素のレベル、すなわち概念の大きさや性質を揃えましょう。

 

〈例〉

✕  彼女はジャズR&Bチャック・ベリーから影響を認めている。

〇 彼女はジャズR&Bロックンロールから影響を認めている。

〇 彼女はジャズR&Bに影響を受け、特に影響を受けたミュージシャンとしてチャック・ベリーの名をあげた。

 

ひとつ目の例文は、ジャンルと個人名が同レベルで並べられているので、違和感を抱くタイプのミスです。ジャンルに揃えたり、ジャンルと個人名で分けてもいいでしょう。

 

〈例〉

✕  このZINEは展示期間中のほか、オンラインショップその他書店などで販売される。

〇 このZINEは展示会場のほか、オンラインショップその他書店などで販売される。

 

原文では、期間と場所で概念が揃っていません。ひとまず「展覧会の会場」と変更して、すべて場所に揃えました。

 

〈例〉

✕  最新情報を掲載し、グッズ販売のために公式サイトが開設される。

〇 最新情報を掲載し、グッズ販売するために公式サイトが開設されている。

〇 最新情報の掲載やグッズ販売のために公式サイトが開設されている。

 

原文では、「最新情報を掲載し」が動詞、「グッズ販売」が名詞で品詞が揃っていません。それぞれ動詞のみ、名詞のみで揃えました。

 

資料に載っているから、取材対象がしゃべったから、といってすべてを原稿に盛り込むのではなく、どれを拾象するかという、ナタのふるい方こそ手腕が問われるものです。いま書き連ねている要素はほんとうに列挙したほうがテーマを伝達できるか、惰性で書き連ねていないか。それぞれの言葉が対等の関係で並べられているかを確かめてください。

 

 

15.列挙の「と」「や」は最初に置く

〈例〉

△ 7日間の会期のうち、1日目2日目4日目7日目に出席する予定です。

〇 7日間の会期のうち、1日目2日目、4日目、7日目に出席する予定です。

 

英語で3つ以上のものを並べたときは「A, B, C, and D」ですが、日本語では「AとB、C、D」と最初の情報のあとに女子を置くのが基本です。話し言葉では、原文のようにすべてに助詞を挟むこともあります。ほかにも「や」「とか」「に」「および」も同様です。

 

 

16.並列の「たり」は省略しない

〈例〉

✕  彼はバイトをしたり受験勉強をして毎日を過ごしていた。

〇 彼はバイトをしたり受験勉強をしたりして毎日を過ごしていた。

 

並列の動作を示すとき、「~たり、~たり」というように助詞「たり」を繰り返し使って表現することがあります。例文では、バイトをすることと、受験勉強をすることが並列の関係で、どちらも「して」という動詞に係っています。

 

〈例〉

事故にでも遭ったりしたら大変だ。

 

この「たり」は、提示した情報以外に類似の要素があることを例示しています。さまざまなアクシデントが考えられる中で、「事故に遭うこと」をひとつの例としてあげる使い方です。少し紛らわしいのが、ひとつの文に2つ以上の動詞が対等に並んでいる場合は、並列の「たり」だということです。

 

 

17.主語の「は」と「が」の使い分け

「は」と「が」はどちらも主語を示す機能を持つ助詞ですが、「は」には「主語の提示」より大きな機能があります。このため、「が」のほうあ主題を限定する機能が強く、「は」のほうがさまざまな含みを持つ表現になります。「は」は、「~についていえば」と言い換えても成り立ちます。

 

〈例〉

「空は青い」→「空というものは青いものだ」と主題に対する一般論を述べる感覚

「空が青い」→ 目の前の減少をありのままに描写する感覚

 

また、「は」には対比の意味もあります。

 

〈例〉

ポール・マッカートニーは1年ぶりに来日する(が、アーノルド・シュワルツェネッガーは来日しない)。

 

対比を表す用法も、結局は「主題の提示」から派生しています。例文では、類似のいくつの可能性の中からひとつを取り上げています。

これに対して「が」は、主語の適用範囲が狭く、明確です。

 

〈例〉

ゲームをするとき、よくイライラしている。

ゲームをするとき、よくイライラしている。

 

「父は」の場合、イライラしているのも父です。「父が」とすると、そこで係り受けが切れて、イライラしているのは母か私かもしれない状態になります。

「は」と「が」の使い分けで迷ったとき、はっきりと主語を提示したいときは、「が」を選択するといいでしょう。

 

 

18.時間にまつわる言葉は「点」か「線」かに留意する

時間表現には、ある瞬間、つまり時点を示す「点」の表現と、流れや幅を持つ「線」の表現があります。

 

〈例〉

✕  4月15日から 発売される

〇 4月15日から 販売される

〇 4月15日 発売される

 

原文の「から」は、ある時点からの継続的な時系列を表す「線」の助詞です。一方で「発売」は「商品が売り出されること」を指しているので、一瞬の時点を示す「点」の表現です。助詞「から」(線)に合わせるのであれば、商品が売っている状態を表す「販売」がいいでしょう。「発売」(点)に合わせるならば、助詞は時点を示す「に」に変えるべきです。

 

〈例〉

どんな経験をしたか、仕事のやりがいや幸せについて深く掘り下げる

どんな経験をしてきたか、仕事のやりがいや幸せについて深く掘り下げていく

 

時間の経過するニュアンスを強めるために便利なのが、「いく」「くる」といった補助動詞です。「した」「掘り下げていく」にも時間の概念が含まれていますが、「してきた」「掘り下げていく」だと時間の流れがより強調されていることがわかると思います。

 

 

読み返して直す 第2章

第1章では、構造的な作文法により、言いたいことが伝わる文章が書けるようになると説明しました。でもそれだけだと完読してもらえる文章とは言えません。

第2章では、ひとまず書き上げた文章を読み返すとき、意味・字面・語呂の3つの見地から説明していきます。

 

 

1. 意味・字面・語呂の3つの見地

よく「料理は目と耳でも味わう」なんて言いますが、文章でも同じです。

「完読」を目指すためには、意味は脳、字面は目、語呂は耳、と複数の感覚器を使って、立体的にブラッシュアップする必要があります。

 

・意味=ミーニング=脳

第1章では、事実・論理・言葉遣いの順に積み上げていくと話しました。黙読しながら誤字脱字や事実誤認はないか、テーマと主内容が嚙み合っているか、表現や文法が適切かどうか確認します。

 

・字面=ビジュアル=目

同じく黙読で、文章のビジュアル、見た目のチェックです。同じ文字の連続、別の単語に見えてしまう箇所など意味的な問題はなくとも、字面的に違和感を覚えるポイントを見つけます。多くの場合、別の言葉に置き換えたり、並べ替えることで解決します。

段落単位の見た目も大事です。漢字の割合が多すぎると黒く難解に、逆にひらがなやカタカナが続くと白く間抜けて見えてくるので、ほど良いグレーを目指します。

 

・語呂=オーディオ=耳

多くの人は黙読しているように見えても、頭の中では音声に変換して再生しています。つまり、リズムの良さは、読み味に大きな影響を与えます。そこで書き手も同じように脳内音読をすることで、サウンドをかみしめるプロセスが重要です。

音読してつまずくパートが出てきたら、ほかの言葉に言い換えられないか考えましょう。

 

 

2. まずは重複チェック

ひと通り書き終えて、読み返しながら言葉遣いを磨いていくとき、「重複チェック」から始めます。そのために欠かせないのが、「あらゆるスケールでの重複に気付くアンテナ」です。単語、文節、文型、段落、記事構成と、あらゆるスケールで重複を見つけられるようになりましょう。

 

・2連は黄色信号、3連はアウト

典型的な単語レベルでの重複は、「の」が挙げられます。

 

〈例〉

✕  私おばさん三女会社社長は有名人です。

〇  私のおばさんの三女が勤めている会社の社長は有名人です。

 

ダブりは少ないようが望ましいですが、2連までは許容できるケースも少なくありません。絶対のルールではありませんが、「2連は黄色信号、3連はアウト」と覚えてください。

 

 

3. 文節レベルの重複を解消する

次は文節レベルの重複を見ていきましょう。

 

〈例〉

✕  朝起きたらまずストレッチをして、すると体が軽くなって、あれってもしかしてこういうことだったのかと気付いて

〇  朝起きたらまずストレッチを、すると体が軽くなって、あれってもしかしてこういうことだったのかと気付いたんです

 

読点を呼び込む動詞は連用形と決まっているため重複するのは当然。そこで同氏の選び方を変えたり、助動詞終わりにしたりと、散らす工夫をしてみましょう。話し言葉の印象はそのままに、文章がずいぶんと読みやすくなりました。

 

〈例〉

✕  マーケットがあったので、お土産を買っておきたかったので入ってみた。

〇  マーケットがあったので、お土産を買っておきたかったため入ってみた。

 

理由・根拠を表す「ので」。同じ機能の「ため」に置き換えて重複を解消しました。

 

〈例〉

〇  毎日走ったりプロテインを飲んだりすることで、体重が落ちていく。

 

助詞「たり」は、重複させて使うことが決まりです。確固たる意図をともなってなされる重複は、エラーとは見なしません。

 

 

4. 文末のバリエーションに気を配る

文節レベルの重複でいちばん気を付けたいのが、文末の重複です。

 

〈例〉

✕  イベント企画について会議をしました。予算の条件が見合わず紛糾しました。結果は来週に持ち越すことにしました

〇  イベント企画について会議をしました。予算の条件が見合わず紛糾しています。結果は来週に持ち越すことになりました

 

文末に「しました」が3回も続いています。そこで2つ目を現代形に変え、3つ目は言い換えることで単調さを緩和しました。

体言止めの連続使用にも注意です。歯切れのいいリズムをもたらすので多用してしまいがちですが、2連続するだけでかなりぶっきらぼうな印象を与えます。

 

〈例〉

✕  10月21日にコンテストが開催。場所は府中の森芸術劇場。各地の中学校の吹奏楽部が出演

〇  10月21日にコンテストが開催される。場所は府中の森芸術劇場。各地の中学校の吹奏楽部が出演する

 

基本の文末パターンは、動詞(現在/過去)、断定の助動詞(~だ/~です)、そして体言止めの3つです。これに加えて形容詞や形容動詞、福祉といった修飾語終わり、さらには倒置法や呼びかけ(~してみよう)といった変化球でカードを増やしていくことです。

 

 

5. 時制を混在させて推進力を出す

原稿の内容によって、現在形/過去形の傾向はある程度決まります。でも書き手の意識あ「過去の時点か見た現在」にあれば、過去の出来事を現在形で書いても成り立つのです。同じことは未来でもいえます。下の例文では、「未来の時点から見た現在」の表現です。

 

〈例〉

最終日は来る23日。観客は感動のフィナーレを目にするだろう。

最終日は来る23日。観客は感動のフィナーレを目にする。

 

もちろん多用は禁物です。時系列の混乱を招かないように、ほどほどバランスを探るようにしてください。

 

 

6. 文型・段落レベルの重複に注意する

〈例〉

△  昨日は具合が悪いと言いながら、家でずっと過ごしていました。翌日はもう治ったと笑いながら、会社で延々働いていました

 

これでは2つの文の構成がダブってしまいます。はっきりとした意図が無いのだとしたら、違う表現を探してバラしてあげましょう。

 

〈例〉

入江亜季が描く乱と灰色の世界」は、地方都市・灰色町を舞台に、魔法使いの一家・漆間家を描くファンタジー。お気に入りの靴を履くとセクシーな美女に変身する魔女っ子小学生・乱を軸に、彼女を取り巻く人々のドラマが展開される。6月15日に最終7巻が発売される予定だ

一方、混同聡乃が描く「A子さんの恋人」は、アラサー女性・A子あ東京とニューヨークの男子を両天秤にかける二股ラブストーリー。優柔不断なA子に呆れながらも事態を面白がる女友達を交え、ひねくれた大人たちのあけすけな会話が飛び交う。隔月誌ハルタ(KADOKAWA)にて連載中だ

 

段落の1文目が体言止め、2文目が内容証明で現在形終わり、3文目は助動詞「だ」終わり、というように叔父様な構造の段落を繰り返しています。重複ではなくとも、接続詞で始まる段落が続いたり、段落末が同じ表現になっていると目立つものです。

 

 

7. 主語と述語を意識しながら構造に還元して読む

「構造に還元して読む」とは、並みいる修飾節をかき分けて、文章の核になる主語と述語、目的語をはっきりつかみ取りながら読むということです。習慣化すれば、考えずとも把握できるようになります。なぜ「構造に還元して読む」必要があるのか。それは何も考えずにつらつら書き進めていると、主語と述語のかみ合わせがズレてしまうことがあるからです。

 

〈例〉

✕  彼女が「旅行に行くからお土産を買ってくるね」と言ったので楽しみにしています

〇  彼女に「旅行に行くからお土産を買ってくるね」と言われたので楽しみにしています

 

主語と述語がかみ合っていない文から、受動態を用いて前半の主語も「私」のように読ませることで、主語一貫性を持たせました。

自分の書いている文の主語はどれか。常に意識しながら読み進めるよう心がけてください。

 

 

8. 単文・重文・複文を理解して係り受けを整理する

「構造に還元して読む」ためには、「係り受け」をはっきり明示することがあります。「係り受け」とは、主語と述語、修飾語と被修飾語のように係る言葉と受ける言葉の関係性のことです。

 

〈例〉

豪華なお皿が広いテーブルの上に並んでいる

 

◆主語と述語の係り受け

「並んでいる」のは → 「お皿」

 

◆修飾語と被修飾語の係り受け

どんな「お皿」 → 「豪華な」

どこに「並んでいる」 → 「上に」

何の「上に」 → 「テーブルの」

どんな「テーブル」 → 「広い」

 

ひとつの文には言葉と言葉の対応関係がいくつも含まれいます。

それぞれの言葉の意味を構造に還元して読み、つながりがおかしくないかチェックします。

係り受けを把握する上で、「単文」「重文」「複文」を覚えておくと便利です。シンプルな構造に組み直す作業が速くなります。

 

◆単文 [主語+述語]

彼女がお茶を飲みました

 

◆重文 [主語+述語]・[主語+述語]

彼女がお茶を飲み私は話を聞いていました

 

◆複文 [従属節(主語+述語)]・[主節(主語+述語)]

私は 彼女が 成長するのを楽しみにしています

      従属節       主節

 

・構造を把握してコントロールする

込み入った重文や複文を分析して読みやすくするには、いったん全て単文にほぐすのが改善への第一歩です。

 

〈例〉

彼女がお茶を飲みながら「旅行に行くからお土産を買ってくるね」と言ったから、私は楽しみにしています。                    複文の従属節が更にある

 ↓

彼女がお茶を飲んでいた。「旅行に行くからお土産を買ってくるね」と言った。だから、私は楽しみにしています全ての単文をバラしても…

 

だいぶシンプルになりました。でもこれではカタコト感が強すぎます。関係が深い文は、複文でつなげたほうが分かりやすいです。

 

〈例〉   複文で滑らかにつなげる

彼女がお茶を飲みながら「旅行に行くからお土産を買ってくるね」と言った。だから私は楽しみにしています

 

文を読むときは構造に還元して読むこと、主語・述語・や修飾語・被修飾語の係り受けを把握し、かみ合ってるか確認すること。複雑なら、バラしてシンプルに。ブツ切りになりすぎたら、重文、複文でつなげて滑らかに。読み味を自在にコントロールできるようになるため、まずは構造を意識するところから始めましょう。

 

 

9. 読点で区切る

読点は、意味の切れ目を明示するための記号です。読点で区切ることで、関係の深い語句をまとめ、係り受けの関係を明確にすることができます。

 

〈例〉

✕  美しい日本の私

〇    美しい日本の

 

原文では「美しい」を受ける被修飾語が「日本」なのか「私」なのかはっきりしません。こういう状態を、私はよく「係り受けが混濁している」と言います。

 

〈例〉

△  2007年2月に音楽ニュースサイトとしてオープンした当初のナタリーにはこれといったビジネスモデルはなかった。

〇    2007年2月に音楽ニュースサイトとしてオープンした当初のナタリーには、これといったビジネスモデルはなかった。

 

原文には読点はなく、係り受けも長く、音読したときに息が続かない感覚がありませんか?ここでは「ナタリーには」の後に読点を打ちました。苦しくなる前に息継ぎが取れるので、スムーズに読めるはずです。

 

〈例〉

✕  記者会見である重大な発表が行われる予定だ。

〇    記者会見で、ある重大な発表が行われる予定だ。

 

原文では、ひらがなが並んで単語の切れ目を誤読させます。読点を打って、「記者会見で」という部分を正しく切り離しました。

 

 

10. ひとつの文で欲張らない

基本のスタイルは一文一義の原則。情報を小分けに「運ぶと、混乱も負荷も減らすことができます。ですので、ひとつの文章に乗せる情報量をコントロールしましょう。一文で朗々と語り継いでいくスタイルは美文調ともいわれ、雄弁なイメージを持たれがち。でも読み手にとっては意味を追う負担が増え、実用的な文章には不向きです。

一文一義といっても、全てを単文にバラすということではないので注意しましょう。

 

 

11. 漢字とかなのバランスに注意する

〈例〉黒っぽい

曽我部恵一が十二月二十四日に新譜「My Friend Keiichi」を発表。一晩で完成させたと云う、全て弾き語りに依る十一曲を収録。外装表面には自画像が描かれ、個人的雰囲気が包装からも感じられる。

 

〈例〉

曽我部恵一が12月24日にニューアルバム「My Friend Keiichi」をリリースする。ひと晩で完成させたという、すべて弾き語りによる11曲を収録。ジャケットには自画像が描かれ、個人的な雰囲気がパッケージからも感じられる。

 

〈例〉白っぽい

曽我部恵一が12月24日にニューアルバム「My Friend Keiichi」をリリースする。曽我部がひと晩でこしらえたという、すべて弾き語りによる11曲が収められる。ジャケットにはポートレートが描かれ、パーソナルなフンイキがパッケージからも感じられる。

 

遠目から例文を見てもらうと、上のブロックから下に向かって、黒っぽいグレーから白っぽいグレーへのグラデーションに見えませんか?文章の中で漢字の割合が多いと段落は黒く、少ないと段落は白く見えます。文面をビジュアル的にデザインする意識は、完読のために必要です。漢字の割合をコントロールして、文章の用途にマッチした、ほど良いグレーを目指しましょう。

 

12. 本来の意味から離れた漢字はかなに開く

日本語の閉じ開きのスタンダードは年々、開き方面にシフトしています。つまり書き手も、世間一般の開き閉じ感覚に合わせる必要があります。

 

〈例〉

△  記事を書いて配信するは製造業の一種です。

〇    記事を書いて配信することは製造業の一種です。

 

原文の「事」は「事柄」という意味の名詞ではないので、「こと」とひらがなに開くのがもはや一般的です。たとえば「新しいもの」の「もの」、「着いたとき」の「とき」、「出るところ」の「ところ」などが、形式名詞の代表格です。実用的な文章では、基本的にひらがなに開いたほうがいいでしょう。

 

〈例〉

△  観客が感動を欲して居る言うことを知って欲しい

〇    観客が感動を欲しているいうことを知ってほしい

 

動詞や形容詞にも、本来の意味から離れた用法があります。「言う」が本来の「say」という意味から離れており、こういった使われ方をするときは形式動詞と呼ばれ、ひらがなに開くことがスタンダードです。文末の「欲しい」は直前の動詞を補助する存在として使われます。ほかの動詞に連なるかたちで意味をサポートしている形容詞や助詞を補助形容詞、補助動詞と呼び、これも多くの場合でひらがなに開きます。「欲して居る」の「居る」も補助動詞です。

また「歩み寄る」「書き殴る」「開き直る」のように、本来の意味が失われずに連結されている動詞は複合動詞と呼ばれ、閉じたままが多いです。

 

13. 誤植の頻発ポイントは事実確認を厳重に

誤植の頻発ポイントとは、固有名詞、数字、そして最上表現。

固有名詞は、人名、作品名、場所名などです。言うまでもないですが、他人が書いた文章をコピー&ペーストして使用するのは、部分的にせよご法度です。一方で「固有名詞は手打ち禁止。公式ソースからコピペしろ」と私は口酸っぱく言います。固有名詞の誤植は、単にウソを流してしまう以前に、関係者やファンの心を傷つけてしまう危険もあります。

 

数字は文章に具体性と客観性を与え、キャッチーにしてくれる便利な要素ですが、同時にミスの地雷原でもあります。年月日、金額、個数、データ、期間など、数字が出てきたらすべて厳重にチェックしてください。

 

最上表現とは「唯一の○○」「○○トップ」「○○初」「○○のみ」といった、最高・最大・唯一性にまつわる表現のことです。仮にそれが事実だとすれば、よそを出し抜いて強い訴求力のある記事になるでしょう。でも公式情報だからと、最上表現を見つけたらまず疑ってかかる癖を付けてください。

 

14. 修正したら冒頭から読み返す

文章の一部分だけを修正した場合でも、必ず冒頭から読み直してください。なぜなら投資て読むと前後のバランスやリズムがちぐはぐになっているケースがたまにあるからです。常に読者の目線をシミュレーションして、過去のメモリを消し、初読のつもりで初っぱなから読み返してください。

 

 

 

 

文章を書く前の準備 第1章

外出先に向かうとき、Googleマップや乗換案内を検索してから出かけますよね。

文章を書くときも同じ。目的地を定め、経路を確認してから出かけるのが得策。でも文章となると、いきなり書き始めてしまう人が多いのです。たまたまうまく書き上げられればラッキーですが、迷い始めたら最後、無限に時間を費やすはめになります。

 

第1章では、文章を書く前の段取り方法を1~14に分けて説明していきます。

 

 

 

1. 良い文章は完読される

良い文章ってなんだろう?

 

その答えは無数にあります。

でもそれだと学びが難しくなってしまうので、ベテランになるまでの間は、たったひとつの万能解を掲げ、そこへの到達を目指すことにします。そのマジックワードは、「完読」です。ここでは完読される文章=良い文章ということに設定します。

 

・おしまいまで読ませる難しさ

逆に、完読されない文章とは何でしょう。文章が分かりづらい?テンポが悪い?間違いだらけ?自分の役に立たない?内容と比べて長文?雑誌でもWebでも、ページをめくるか閉じてしまいますよね。

私を含め、近年のネットユーザーは長文への耐性が低下しています。

だから私たちは文章力磨かないと、断片的な情報しか渡せなくなってしまいます。

こらえ性のない読み手に情報を不足なく、メッセージを手渡しましょう。

 

・目標を掲げて腕を磨く

本当のことをいうと、良い文章は「時と場合による」ものです。

でも初心者のうちは、目指すべき状態をはっきり見定め、迷いなく腕を磨いていく必要があります。

だから、まずは文章を完読させることが大事なんです。

 

 

2. 完読される文章は完食されるラーメン

完読される文章=良い文章と設定しましたが、これを目指すにあたって、「完読」という概念を「完食」に置き換えると理解しやすい。ここでは、誰でも馴染みのあるラーメンに例えて説明します。

 

あなたはラーメンをどんなとき、食べきれず残しますか?

多すぎる、麺ののどごしが悪い、虫が入ってる、食べたかった味じゃない、味が濃すぎなどラーメンに例えると矢継ぎ早に回答が出てくると思います。文章でいうと、文章が長すぎる、リズムが悪くてつっかえる、誤字脱字がある、求めていない内容、主張が強すぎるなどに言い換えることができます。つまり、完食されるラーメン=完読される文章ともいえます。

 

適切な長さ、旬の話題、テンポがいい文章。事実に沿った内容、言葉遣いに誤りがない、表現にダブりがない文章。読み手の需要に則した押し付けがましくない文章。もちろんこれだけではないですが、こんな文章なら引き込まれますよね。

 

 

3. 文章は目に見えている部分だけではない

「完読」を目指すために、まず文章の多層性について知っておく必要があります。森の地面が落ち葉、腐葉土、黒土と層になってるように、文章も概念のレイヤーが積み重なってできています。

 

いちばん表層のレイヤーに、目に見える「言葉遣い」。言いたいこと、伝えたいこと、こうだからゆえにこうなると言いたい「論理」。出来事や日にち、人やものの名前、行為、場所などの「事実」。この3つのレイヤーは、取り返しのつかない順序で積み重なっています。

 

実用的な文章力をレベルアップするには、事実・理論・言葉遣いの順番に積み上げていく思考を身につけることです。

 

 

4. 必要なものはテーマと主内容

事実・理論・言葉遣いについて話をしましたが、理論の書き方をここでご説明します。

理論的に書くために私は、「書き始める前にテーマと主内容を立てること」だと答えます。

 

テーマとは、その文章で何を言うのか、何を言うための文章なのかという目的のことだと思ってください。そしてテーマを達成するための骨組みを主内容とします。文章における主内容は、要素・順番・重軽の3つから構成されます。

 

書き始める前にテーマを決め、何を・どれから・どれくらい話すか決める。これを私は、構造的記述と呼んでいます。

 

 

5. 悩まず書くためにプラモデルを用意する

突然ですが、丸太とノミを渡されて、「これでガンダムを作りなさい」と言われたらどうしますか?もしくは紙粘土を渡されて「これで宇宙戦艦ヤマトを作りなさい」と言われたら?私だったら途方に暮れてしまいます。

でもこれがプラモデルだとどうでしょうか。パーツ・取扱説明書・箱絵が3つセットになってパッケージとして成り立っており、出来はさておき小学生でも完成にこぎ着けれます。

なぜプラモデルあ簡単で間違いがないか。それはあらかじめユニット化されたパーツが用意されていて、箱絵で完成イメージを確認した後、取扱説明書の指示通りに組み立てられるからです。つまり、作文をプラモデル化すればいいんです。

 

箱絵を「どんなことを伝える文章なのか」、パーツを「何を言うか」、取扱説明書を「どこから」「どこを重点に」に置き換えます。つまり、箱絵=テーマ、パーツ=要素、取扱説明書=順番・重軽という具合です。

更に「書き始める前にテーマと主内容を立てる」を言い換えると、「作文をプラモデル化しておく」ということです。

 

 

6. 書きたい話題を箇条書きにする

「作文をプラモデル化しておく」と言いましたが、具体的には、これから書こうとしている文章に含まれそうな話題を箇条書きで書き出す作業で説明していきます。

事実ベースの文章は、事実をどんどん書く。手紙やレビューのような主観を述べる文章なら、何を思い感じたのか箇条書きにして書く。でもこの段階では順番や整合性は気にしてはいけません。まずは手持ちの話題をリストアップすることが大切です。

 

5W1Hの法則に沿って事実を揃える

事実を揃えていくときに便利なのが、Who(誰が) 、What(何を)  When(いつ)  Where(どこで)  Why(なぜ)  How(どうやって)の5W1Hの法則。

決して万能ではありませんが、いま持っている情報に何が欠落しているのかを考える際に役立つことが多いです。パーツを揃えるときの抜け漏れチェックに5W1Hは有用です。

 

・材料を取ってくる、すなわち「取材」

書くためのパーツを用意することを私は「取材」と呼んでいます。本来は、材料を取ってくるというシンプルな意味です。書きたい文章が事実ベースではない場合にも重要です。

主観を述べる際の取材とは何かと考えると、それは「自分にインタビューをすること」だと私は思います。

 

 

7. 文章のテーマを設定する

文章を書き始める前に、必ずテーマを決めます。これは文章を書く上で絶対条件です。

テーマを別の言葉に言い換えるとコンセプト、または切り口とも言います。

 

・文章のオリジナリティは切り口に宿る

自分の頭で考え、テーマを決め、切り口を提供しているのなら、そこにはオリジナリティが宿っていると私は考えています。

 

 

8. 文章の主内容を組み立てる

テーマが決まったら、次は主内容を固める作業です。

主内容とは要素・順番・重軽、もしくは「何を、どれから、どれくらい」だと説明しました。その中でも大切なのは、要素・順番・重軽の順に決めること。この順番を間違えると迷い道に入り込んでしまいます。

 

用意した要素から、順番の作業に入ります。ストーリー設計をし、おしまいまで読者の注意力を途切れさせないように並び替えます。

軽重の作業では、その話題ををどれくらい重点的に語るか、さらっと流すか。私はABCの3段階評価で見定めています。

 

 

9. テーマと話題を「構造シート」でまとめる

安定して書き続けるためには、時間を減らす工夫が必要です。

書き始める前にテーマと主内容を固める、プラモデル化の一連作業を決まった流れで紙に書くことを、私は「構造シート」と呼んでいます。

 

< 構造シートの作り方 >

 ➊ 紙の上部にテーマを書く欄を作る。

 ➋ 箇条書きでこれから書く話題を挙げる。

 ➌ 並べた話題から、これから書く文章を見定め、テーマ欄に書き込む。

 ➍ どの話題から切り出すべきか、テーマを基準に吟味し、項目の左横に順番を数字で書き込む。

 ➎ 新しい紙の上部に再度テーマを書き込み、項目を順番通りに並べ直す。しっくり来なければ、再度吟味して並べ替える。

 ※順番通りに書き直すことで、全体の流れがクリアに認識され、仕上がりのイメージが明確になります。

 ➏ アピールしたい優先度を、項目の右側にABCの3ランクで格付けする。

 

構造シートの練習は必ず手書きで行ってください。最初からパソコンを使うと、テーマと主内容を打ち込むことに疲れてしまいます。

 

 

10. 話題はテーマに沿って取捨選択する

主内容の立て方の補足として、集めた材料をすべて使わない、つまり取捨選択の考え方が必要です。

主内容を組み上げる際には、捨てる判断が必要とされる場合もあります。

取捨選択の基準をテーマに即しているかどうか、伝えることに奉仕できているかを軸に置いて判断してください。

 

 

11. 結論・要約を最初に提示する

主内容とは要素・順番・重軽、もしくは「何を、どれから、どれくらい」と書きましたが、一番思考に時間が掛かるのは順番です。

理由は、話題の項目とテーマから、どの話題から話すか決めないといけないからです。

 

大事な話題から言うとは、文章を最後まで読みたくなるような、魅力的な一段落を最初に持ってくることです。

 

< 結論・要約を最初に提示する構成例 >

結論 → 問題提起 → 状況説明 → 付帯情報

 

冒頭で読者の興味を引きつけ、関心をキープしたまま、目標である完読までこぎつける、これがネット時代の基本装備だと考えています。

 

 

12. 構造シートの内容に肉付けしていく

準備した構造シートにはタイトル案と、文章の順に幹となる部分が既にできています。あとはこの幹を膨らませながら、文章の状態にまで修正をします。構造シートに肉付けするだけで、言葉はつたなくとも言いたい事は伝わる文章になるのです。

 

 

13. 完成度よりも全体像の把握を優先する

構造シートの内容に肉付けしていくと書きましたが、それでも手が止まってしまう瞬間もあります。そんな時は次に書き進めて、修正は後からやることをお勧めします。完成度が低くても、おしまいまで書き通すことが大切です。

2,000字を超える文章を書く場合は、文章そのものをいくつかパート分けして、コマ切れして構造シートを書いていきます。

 

・人に話す気持ちで説明してみる

それでも手が止まってしまったら、多くの原因は構造シートに潜んでいます。構造シートに矛盾や破綻があると小手先の言葉遣いでは修復が効きません。

見直す際には、書いた内容を人に話してみること、相手がいないときは心の中で誰かに説明してみましょう。

人に話すことで難所がどこにあるか、それはどういう原因なのか、アウトプットの形態を変えることで分かることがあります。

 

 

14. 構造シートを繰り返し書く

ベテランの方もいきなり書き始めたのではなく、瞬間的に心の中に構造シートを立ち上げ、書き込み、その後書き始めています。そのためには、まず構造シートを埋める練習から始めてください。

書き直しがなくなる日を目指して「ボンヤリ書く、直す、気付いてうまくなる」の繰り返しで徐々にレベルアップします。