読み返して直す 第2章

第1章では、構造的な作文法により、言いたいことが伝わる文章が書けるようになると説明しました。でもそれだけだと完読してもらえる文章とは言えません。

第2章では、ひとまず書き上げた文章を読み返すとき、意味・字面・語呂の3つの見地から説明していきます。

 

 

1. 意味・字面・語呂の3つの見地

よく「料理は目と耳でも味わう」なんて言いますが、文章でも同じです。

「完読」を目指すためには、意味は脳、字面は目、語呂は耳、と複数の感覚器を使って、立体的にブラッシュアップする必要があります。

 

・意味=ミーニング=脳

第1章では、事実・論理・言葉遣いの順に積み上げていくと話しました。黙読しながら誤字脱字や事実誤認はないか、テーマと主内容が嚙み合っているか、表現や文法が適切かどうか確認します。

 

・字面=ビジュアル=目

同じく黙読で、文章のビジュアル、見た目のチェックです。同じ文字の連続、別の単語に見えてしまう箇所など意味的な問題はなくとも、字面的に違和感を覚えるポイントを見つけます。多くの場合、別の言葉に置き換えたり、並べ替えることで解決します。

段落単位の見た目も大事です。漢字の割合が多すぎると黒く難解に、逆にひらがなやカタカナが続くと白く間抜けて見えてくるので、ほど良いグレーを目指します。

 

・語呂=オーディオ=耳

多くの人は黙読しているように見えても、頭の中では音声に変換して再生しています。つまり、リズムの良さは、読み味に大きな影響を与えます。そこで書き手も同じように脳内音読をすることで、サウンドをかみしめるプロセスが重要です。

音読してつまずくパートが出てきたら、ほかの言葉に言い換えられないか考えましょう。

 

 

2. まずは重複チェック

ひと通り書き終えて、読み返しながら言葉遣いを磨いていくとき、「重複チェック」から始めます。そのために欠かせないのが、「あらゆるスケールでの重複に気付くアンテナ」です。単語、文節、文型、段落、記事構成と、あらゆるスケールで重複を見つけられるようになりましょう。

 

・2連は黄色信号、3連はアウト

典型的な単語レベルでの重複は、「の」が挙げられます。

 

〈例〉

✕  私おばさん三女会社社長は有名人です。

〇  私のおばさんの三女が勤めている会社の社長は有名人です。

 

ダブりは少ないようが望ましいですが、2連までは許容できるケースも少なくありません。絶対のルールではありませんが、「2連は黄色信号、3連はアウト」と覚えてください。

 

 

3. 文節レベルの重複を解消する

次は文節レベルの重複を見ていきましょう。

 

〈例〉

✕  朝起きたらまずストレッチをして、すると体が軽くなって、あれってもしかしてこういうことだったのかと気付いて

〇  朝起きたらまずストレッチを、すると体が軽くなって、あれってもしかしてこういうことだったのかと気付いたんです

 

読点を呼び込む動詞は連用形と決まっているため重複するのは当然。そこで同氏の選び方を変えたり、助動詞終わりにしたりと、散らす工夫をしてみましょう。話し言葉の印象はそのままに、文章がずいぶんと読みやすくなりました。

 

〈例〉

✕  マーケットがあったので、お土産を買っておきたかったので入ってみた。

〇  マーケットがあったので、お土産を買っておきたかったため入ってみた。

 

理由・根拠を表す「ので」。同じ機能の「ため」に置き換えて重複を解消しました。

 

〈例〉

〇  毎日走ったりプロテインを飲んだりすることで、体重が落ちていく。

 

助詞「たり」は、重複させて使うことが決まりです。確固たる意図をともなってなされる重複は、エラーとは見なしません。

 

 

4. 文末のバリエーションに気を配る

文節レベルの重複でいちばん気を付けたいのが、文末の重複です。

 

〈例〉

✕  イベント企画について会議をしました。予算の条件が見合わず紛糾しました。結果は来週に持ち越すことにしました

〇  イベント企画について会議をしました。予算の条件が見合わず紛糾しています。結果は来週に持ち越すことになりました

 

文末に「しました」が3回も続いています。そこで2つ目を現代形に変え、3つ目は言い換えることで単調さを緩和しました。

体言止めの連続使用にも注意です。歯切れのいいリズムをもたらすので多用してしまいがちですが、2連続するだけでかなりぶっきらぼうな印象を与えます。

 

〈例〉

✕  10月21日にコンテストが開催。場所は府中の森芸術劇場。各地の中学校の吹奏楽部が出演

〇  10月21日にコンテストが開催される。場所は府中の森芸術劇場。各地の中学校の吹奏楽部が出演する

 

基本の文末パターンは、動詞(現在/過去)、断定の助動詞(~だ/~です)、そして体言止めの3つです。これに加えて形容詞や形容動詞、福祉といった修飾語終わり、さらには倒置法や呼びかけ(~してみよう)といった変化球でカードを増やしていくことです。

 

 

5. 時制を混在させて推進力を出す

原稿の内容によって、現在形/過去形の傾向はある程度決まります。でも書き手の意識あ「過去の時点か見た現在」にあれば、過去の出来事を現在形で書いても成り立つのです。同じことは未来でもいえます。下の例文では、「未来の時点から見た現在」の表現です。

 

〈例〉

最終日は来る23日。観客は感動のフィナーレを目にするだろう。

最終日は来る23日。観客は感動のフィナーレを目にする。

 

もちろん多用は禁物です。時系列の混乱を招かないように、ほどほどバランスを探るようにしてください。

 

 

6. 文型・段落レベルの重複に注意する

〈例〉

△  昨日は具合が悪いと言いながら、家でずっと過ごしていました。翌日はもう治ったと笑いながら、会社で延々働いていました

 

これでは2つの文の構成がダブってしまいます。はっきりとした意図が無いのだとしたら、違う表現を探してバラしてあげましょう。

 

〈例〉

入江亜季が描く乱と灰色の世界」は、地方都市・灰色町を舞台に、魔法使いの一家・漆間家を描くファンタジー。お気に入りの靴を履くとセクシーな美女に変身する魔女っ子小学生・乱を軸に、彼女を取り巻く人々のドラマが展開される。6月15日に最終7巻が発売される予定だ

一方、混同聡乃が描く「A子さんの恋人」は、アラサー女性・A子あ東京とニューヨークの男子を両天秤にかける二股ラブストーリー。優柔不断なA子に呆れながらも事態を面白がる女友達を交え、ひねくれた大人たちのあけすけな会話が飛び交う。隔月誌ハルタ(KADOKAWA)にて連載中だ

 

段落の1文目が体言止め、2文目が内容証明で現在形終わり、3文目は助動詞「だ」終わり、というように叔父様な構造の段落を繰り返しています。重複ではなくとも、接続詞で始まる段落が続いたり、段落末が同じ表現になっていると目立つものです。

 

 

7. 主語と述語を意識しながら構造に還元して読む

「構造に還元して読む」とは、並みいる修飾節をかき分けて、文章の核になる主語と述語、目的語をはっきりつかみ取りながら読むということです。習慣化すれば、考えずとも把握できるようになります。なぜ「構造に還元して読む」必要があるのか。それは何も考えずにつらつら書き進めていると、主語と述語のかみ合わせがズレてしまうことがあるからです。

 

〈例〉

✕  彼女が「旅行に行くからお土産を買ってくるね」と言ったので楽しみにしています

〇  彼女に「旅行に行くからお土産を買ってくるね」と言われたので楽しみにしています

 

主語と述語がかみ合っていない文から、受動態を用いて前半の主語も「私」のように読ませることで、主語一貫性を持たせました。

自分の書いている文の主語はどれか。常に意識しながら読み進めるよう心がけてください。

 

 

8. 単文・重文・複文を理解して係り受けを整理する

「構造に還元して読む」ためには、「係り受け」をはっきり明示することがあります。「係り受け」とは、主語と述語、修飾語と被修飾語のように係る言葉と受ける言葉の関係性のことです。

 

〈例〉

豪華なお皿が広いテーブルの上に並んでいる

 

◆主語と述語の係り受け

「並んでいる」のは → 「お皿」

 

◆修飾語と被修飾語の係り受け

どんな「お皿」 → 「豪華な」

どこに「並んでいる」 → 「上に」

何の「上に」 → 「テーブルの」

どんな「テーブル」 → 「広い」

 

ひとつの文には言葉と言葉の対応関係がいくつも含まれいます。

それぞれの言葉の意味を構造に還元して読み、つながりがおかしくないかチェックします。

係り受けを把握する上で、「単文」「重文」「複文」を覚えておくと便利です。シンプルな構造に組み直す作業が速くなります。

 

◆単文 [主語+述語]

彼女がお茶を飲みました

 

◆重文 [主語+述語]・[主語+述語]

彼女がお茶を飲み私は話を聞いていました

 

◆複文 [従属節(主語+述語)]・[主節(主語+述語)]

私は 彼女が 成長するのを楽しみにしています

      従属節       主節

 

・構造を把握してコントロールする

込み入った重文や複文を分析して読みやすくするには、いったん全て単文にほぐすのが改善への第一歩です。

 

〈例〉

彼女がお茶を飲みながら「旅行に行くからお土産を買ってくるね」と言ったから、私は楽しみにしています。                    複文の従属節が更にある

 ↓

彼女がお茶を飲んでいた。「旅行に行くからお土産を買ってくるね」と言った。だから、私は楽しみにしています全ての単文をバラしても…

 

だいぶシンプルになりました。でもこれではカタコト感が強すぎます。関係が深い文は、複文でつなげたほうが分かりやすいです。

 

〈例〉   複文で滑らかにつなげる

彼女がお茶を飲みながら「旅行に行くからお土産を買ってくるね」と言った。だから私は楽しみにしています

 

文を読むときは構造に還元して読むこと、主語・述語・や修飾語・被修飾語の係り受けを把握し、かみ合ってるか確認すること。複雑なら、バラしてシンプルに。ブツ切りになりすぎたら、重文、複文でつなげて滑らかに。読み味を自在にコントロールできるようになるため、まずは構造を意識するところから始めましょう。

 

 

9. 読点で区切る

読点は、意味の切れ目を明示するための記号です。読点で区切ることで、関係の深い語句をまとめ、係り受けの関係を明確にすることができます。

 

〈例〉

✕  美しい日本の私

〇    美しい日本の

 

原文では「美しい」を受ける被修飾語が「日本」なのか「私」なのかはっきりしません。こういう状態を、私はよく「係り受けが混濁している」と言います。

 

〈例〉

△  2007年2月に音楽ニュースサイトとしてオープンした当初のナタリーにはこれといったビジネスモデルはなかった。

〇    2007年2月に音楽ニュースサイトとしてオープンした当初のナタリーには、これといったビジネスモデルはなかった。

 

原文には読点はなく、係り受けも長く、音読したときに息が続かない感覚がありませんか?ここでは「ナタリーには」の後に読点を打ちました。苦しくなる前に息継ぎが取れるので、スムーズに読めるはずです。

 

〈例〉

✕  記者会見である重大な発表が行われる予定だ。

〇    記者会見で、ある重大な発表が行われる予定だ。

 

原文では、ひらがなが並んで単語の切れ目を誤読させます。読点を打って、「記者会見で」という部分を正しく切り離しました。

 

 

10. ひとつの文で欲張らない

基本のスタイルは一文一義の原則。情報を小分けに「運ぶと、混乱も負荷も減らすことができます。ですので、ひとつの文章に乗せる情報量をコントロールしましょう。一文で朗々と語り継いでいくスタイルは美文調ともいわれ、雄弁なイメージを持たれがち。でも読み手にとっては意味を追う負担が増え、実用的な文章には不向きです。

一文一義といっても、全てを単文にバラすということではないので注意しましょう。

 

 

11. 漢字とかなのバランスに注意する

〈例〉黒っぽい

曽我部恵一が十二月二十四日に新譜「My Friend Keiichi」を発表。一晩で完成させたと云う、全て弾き語りに依る十一曲を収録。外装表面には自画像が描かれ、個人的雰囲気が包装からも感じられる。

 

〈例〉

曽我部恵一が12月24日にニューアルバム「My Friend Keiichi」をリリースする。ひと晩で完成させたという、すべて弾き語りによる11曲を収録。ジャケットには自画像が描かれ、個人的な雰囲気がパッケージからも感じられる。

 

〈例〉白っぽい

曽我部恵一が12月24日にニューアルバム「My Friend Keiichi」をリリースする。曽我部がひと晩でこしらえたという、すべて弾き語りによる11曲が収められる。ジャケットにはポートレートが描かれ、パーソナルなフンイキがパッケージからも感じられる。

 

遠目から例文を見てもらうと、上のブロックから下に向かって、黒っぽいグレーから白っぽいグレーへのグラデーションに見えませんか?文章の中で漢字の割合が多いと段落は黒く、少ないと段落は白く見えます。文面をビジュアル的にデザインする意識は、完読のために必要です。漢字の割合をコントロールして、文章の用途にマッチした、ほど良いグレーを目指しましょう。

 

12. 本来の意味から離れた漢字はかなに開く

日本語の閉じ開きのスタンダードは年々、開き方面にシフトしています。つまり書き手も、世間一般の開き閉じ感覚に合わせる必要があります。

 

〈例〉

△  記事を書いて配信するは製造業の一種です。

〇    記事を書いて配信することは製造業の一種です。

 

原文の「事」は「事柄」という意味の名詞ではないので、「こと」とひらがなに開くのがもはや一般的です。たとえば「新しいもの」の「もの」、「着いたとき」の「とき」、「出るところ」の「ところ」などが、形式名詞の代表格です。実用的な文章では、基本的にひらがなに開いたほうがいいでしょう。

 

〈例〉

△  観客が感動を欲して居る言うことを知って欲しい

〇    観客が感動を欲しているいうことを知ってほしい

 

動詞や形容詞にも、本来の意味から離れた用法があります。「言う」が本来の「say」という意味から離れており、こういった使われ方をするときは形式動詞と呼ばれ、ひらがなに開くことがスタンダードです。文末の「欲しい」は直前の動詞を補助する存在として使われます。ほかの動詞に連なるかたちで意味をサポートしている形容詞や助詞を補助形容詞、補助動詞と呼び、これも多くの場合でひらがなに開きます。「欲して居る」の「居る」も補助動詞です。

また「歩み寄る」「書き殴る」「開き直る」のように、本来の意味が失われずに連結されている動詞は複合動詞と呼ばれ、閉じたままが多いです。

 

13. 誤植の頻発ポイントは事実確認を厳重に

誤植の頻発ポイントとは、固有名詞、数字、そして最上表現。

固有名詞は、人名、作品名、場所名などです。言うまでもないですが、他人が書いた文章をコピー&ペーストして使用するのは、部分的にせよご法度です。一方で「固有名詞は手打ち禁止。公式ソースからコピペしろ」と私は口酸っぱく言います。固有名詞の誤植は、単にウソを流してしまう以前に、関係者やファンの心を傷つけてしまう危険もあります。

 

数字は文章に具体性と客観性を与え、キャッチーにしてくれる便利な要素ですが、同時にミスの地雷原でもあります。年月日、金額、個数、データ、期間など、数字が出てきたらすべて厳重にチェックしてください。

 

最上表現とは「唯一の○○」「○○トップ」「○○初」「○○のみ」といった、最高・最大・唯一性にまつわる表現のことです。仮にそれが事実だとすれば、よそを出し抜いて強い訴求力のある記事になるでしょう。でも公式情報だからと、最上表現を見つけたらまず疑ってかかる癖を付けてください。

 

14. 修正したら冒頭から読み返す

文章の一部分だけを修正した場合でも、必ず冒頭から読み直してください。なぜなら投資て読むと前後のバランスやリズムがちぐはぐになっているケースがたまにあるからです。常に読者の目線をシミュレーションして、過去のメモリを消し、初読のつもりで初っぱなから読み返してください。